いつどこで誰が何をした


校門までの廊下を並んで歩く。
見慣れない転校生だからか、すれ違う人は珍しいものを見るように久遠さんを見ている。
あまり本人は気にしていないようだけど。


「新田さんは優しいんですね」
不意に久遠さんが僕を見上げる。

「え?」
「誰に対しても平等で、さっきぶつかってしまった人にも優しく笑いかけてましたし、誰隔てなく接することができる人って素敵だと思います」
いやそんな大それた人間じゃないよ。
「だってクラスメイトだから」
それだけの理由。

「クラスメイトって素敵ですね」
まあ、そうかな。
クラスという小社会で生きる仲間だからね。
いやでも毎日顔を合わせるんだ。良好な関係を築くに越したことはない。


「あの、新田さんは」
んー
「なんか新田さんってよそよそしいからひかるのほうでいいよ」
名字で呼ぶ人のほうが少ないし
「じゃ、じゃあひかるさん」
照れ臭そうにそう言って笑った。
嬉しそうだな。なんかこっちまで照れるな。

「うん、なに?」
「楽しいですか?学校生活は」
「え?学校生活?」
「あ、その…私実は、学校というものに通うのが初めてなんです。今まではずっと家庭教師だったのでクラスメイトという人もいなくて。そもそも学校に憧れてたので…どんなものかなぁと。昨夜は緊張とワクワクで寝られませんでした」
へぇすげぇ

「そうだったんだ。うん。まあ、楽しいんじゃないかな?久遠さんは今日どうだったの?」
「今日は……とっっても楽しかったです!」
「それはよかった。僕も別に嫌いじゃないよ、学校は。みんなに会えるしね」
「そうですか!ふふ、もう家庭教師には戻れないかもしれないです」
家庭教師かぁ…退屈そ。


外は秋の夕暮れだけどまだかなり明るい
でもそろそろ涼しくなってきたな。

と、なんと校門の前にピカピカの黒い車。
リムジンとまでは行かないけどなんか長めで高級そう。
「すっご…誰の車…」

となりの久遠さんが恥ずかしそうに俯いていた。
「久遠さんの?」
「…はい」
なるほど。理解。
あまり触れるのはやめておくか。

「じゃあ僕はあっちだから」
手を軽く上げて去ろうとすると慌てた声が背中にかかる。
「ああ、あの!別に気を使うことではないので!その!」
落ち着きのない久遠さんを見てるとまた何かやらかすんじゃないかと不安になる。
「気なんか使ってないよ。じゃあまた明日久遠さん!これからよろしくね!」
「はわぁ!ひ、ひかるさん!送りましょうか!!」

感動した声とともにそんな叫びが聞こえたので
「遠慮しとくー!」
片手を上げて背を向けた。

んーずいぶんとすごい人に懐かれちゃったみたいだ。


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