いつどこで誰が何をした
その日はお昼前に解散した。
片桐のこともあり、あまり教室に長らく残っていると柿田のグループが何かしにくるかもしれないし。
そうは言っても僕はすぐ帰る気にもなれず、ダラダラと教室でスマホを見ていた。
「ひかる」
と、教室の入り口で僕を呼ぶ声。
「祐樹」
祐樹だった。
「どうしたの?」
「いや、帰らないのかなって思って」
「んー…なんか何をする気にもなれなくて」
「まあそうだよな。今日は…色々あったし」
祐樹はいつもより静かな声でそう言って僕の隣の席に座る。
「…なあ、覚えてる?」
?
「野々村が死んだ日さ、体育の授業あったじゃん」
体育?
「あーバスケ?」
「そうそう」
そうだったね。
「それが何?」
「あの時ひかるに言ったよな。ひかるはいつも一歩引いてるって。中学から一緒なのにひかるの本気って一回も見たことないって」
そんなこと言ってたっけ?
「何に対しても興味関心が薄い無気力な感じがひかるの特徴だと思ってた」
はあ。
「…でもこのゲームが始まって…あまりにも積極的に動くひかるを見て、ちょっとびっくりしたんだ。
流石に命がかかってるからかと思ったけど、ひかるがこんなに色々できるって知らなかった」
色々?
「僕大して何もしてないと思うけど」
確かにでしゃばって意見はたくさん言って来た。
その結果がこのグループ分けだと思うけど。
でもだからと言って僕が何かしたかと言えば…
「いや、してるよ。ひかるはこのゲームを…誰よりもプレイしてる」
…。
「意味不明な死に嘆くこともなく、自分の命の危機に焦るでもなく、仲間の死に打ちひしがれるでもなく…ひかるは常に冷静に、常に…『普通』にこのゲームに立ち向かってる」
祐樹の真っ直ぐな目が僕を真剣に捉える。
「俺は正直お前が怖い。常軌を逸したこの状況に、こんなにも順応していけるひかるが」
祐樹…
「それから」
…?
「ひかるがあまりにもあっけなく自分の命を放り出しそうで…怖い」
……
「俺はお前を失うのが怖いよ、ひかる」
…この親友は、あまり弱音を吐かない人間だった。
こんな状況に陥れば度々怯えることはあったけど、それでもやっぱり明るくて、僕への挨拶は欠かさなくて、僕のことを本当に親友だと思ってくれてる。
それはもちろん僕もだ。
親友なんてクサイ表現あんまり好きじゃない。
でも…祐樹は間違いなく僕の親友で、一番大事なクラスメイトだ。
「それは僕もだよ、祐樹。僕もお前を失うのが怖い。だからさ」
僕は祐樹に正面から向き直り、真っ直ぐ目を見た。
「生き延びよう、絶対に。僕は聖人じゃないから人を選ぶ。僕が一番失いたくないクラスメイトは祐樹だ」
「…ひかる」
祐樹は何に怯えているのか自分でもわかっていないようだった。
この現実への恐怖、明日死ぬかもしれない恐怖、終わりの見えない恐怖、変わっていくクラスメイトへの恐怖、大切な人を失うかもしれない恐怖…
「僕はこのゲームをプレイするよ。それが間違いなく生き残るための鍵だから。だから祐樹もそうしてくれ」
「…うん」