いつどこで誰が何をした


全く想像通りの研究室。
白い無機質な空間に様々な薬品や機械が並べられている。
僕らは理科室の椅子のような座り心地の決してよくない椅子に座った。

祐樹は相変わらず僕の腕をしかと握っている。
ずっと俯いていて微かに震えている。
僕は定期的に祐樹の背中をさすってやるがあまり効果はなさそう。


久遠さんのお兄さんはパソコンを何やら操作している。そしてエンターキーの大きな音の後、徐に僕らの前に立った。
「改めて初めまして。愛菜の兄の久遠綾人です。まあ自己紹介はいいとして。
とにかく詳しいことは愛菜から聞いた。君たちが巻き込まれているゲームとやらに使われているのは、間違いなく私達の研究した『Mo153』という小型の思考脳補助プログラムだ」

Mo153…
おもいこみ…

「君たちが強制思い込みプログラムと呼んでいるものだね。まあ事実その通りだ。愛菜の説明を聞いたと思うけど、人間の使える脳のパーセンテージを操作し、脳から身体への影響力を利用する。この機械は特殊な注射器を使って人体に入れる。まあ詳しいことは説明しても仕方ないから要点をまとめると、体内でMo153は組み立てられ、大体耳の辺りに収まるんだ」
耳…
みんな自分の耳に触れる。

「そしてそこから電気信号やら何やらを通して脳にショックを与える。それが君らの言うところの思い込みによる作用だ」
…恐ろしい機械だな。


「実際は鬱病などの精神的障害、脳の発達などを助ける医療機械として開発される予定だった…。だが開発は思わぬ形に成功してしまった」
…。

「…不可能を可能にする装置」
僕の言葉に綾人さんは深く頷いた。

「その通り。このプログラムは人間の持っている可能性を未知の域まで引き出すことができる恐ろしい装置だ。人類の限界は未だ解明されていない。もしその限界がとてつもない域に到達する物であれば…この機械を悪用しようとする人間は必ず現れる」
まさしく、このゲームの主犯のようにね。

「不可能を可能にするというのは一見素晴らしいことのようにも思えるが…時には不可能であることが世界の均衡を保っている……そう、代表は言っていたよ」
代表…
「加賀山秀行さんですか」
枕崎が言った。
「…そうだね」


「…あの」

「そんな解説なんかより…さっさとそのプログラムを解除してくれませんか」
そう暗い声で言ったのは祐樹だった。

「早くしないと…早くしないとひかるが…」
「祐樹、大丈夫だから」
「大丈夫なわけないだろ!!今すぐにでもなんとかしないとひかるは死んじまうんだぞ!早くプログラムを解除するんだ!今すぐ!」
祐樹はぜぇぜぇと息をしながら半端じゃない力で僕の腕を握りしめる。


…僕のために
ここまで乱れてくれる人がいるというのは…なんだか変な気分だった。

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