いつどこで誰が何をした


肌を白色に変え、白目を剥いた宇佐美がそのまま倒れた。
少し遅れて痛みに顔を歪ませた花里もゆらりと後ろに倒れる。

「誠!」
柿田がキンッと鳴る声で叫んだ。
柳谷と渡辺も駆け寄る。

僕は壁に激しくぶつけた背中の痛みに耐えつつ、花里に歩み寄る。


「誠!誠っ!」
「………ひ、かるく…」
「花里」

花里の胸元からどくどくと血が流れ出る。
そこを刺されたんじゃ…もう…

「…ひかるくん…は、無事…?」
「…おかげさまで」
「……よかっ…たぁ……」

花里がへらりと笑って僕に震える手を伸ばす。
立ったままその手を受け取る。…もう冷たい。


「…花里、なんで」
庇う必要は…別になかったはずだ。
「…言った…でしょ……僕は…ひかるく…の…盾にだって…なるん、だよ」
僕の手を…死に際のくせにやたら強い力で握る花里。

「…ごめん」
「……やだな…ぁ…謝らないでよ……らしくな…い」
花里がグイグイと僕を引っ張っている。応えるように柿田に支えられている花里の隣に屈む。

「ひかるく……僕が…死んだら…悲しい…?」
「…悲しいよ、結構」
思っていたより…悲しいかもしれない。
「はは…やった……嬉し…」

「もう喋るな。苦しいだろ」
「いや…だね……どうせ…死ぬんだ……だったら……残りの、体力で…紡げる、言葉は…全部……ひかるくんに…捧げる」
…好きにしろ。


「…僕……役に、立った…?」
「立ったよ」
「…僕の…こと、ちょっと…は……」
「ちゃんと好きだよ」
「…っ…ああ……僕…生きてて……よかった」
花里の目から涙が伝う。
僕なんかの言葉で、こいつは泣くのか。

「……ひかるく…最後に……僕に…」
「キスはしないよ」
「…ふふ……あはは…さすが……それでこそ…僕の…愛する………ひ…かる、くん」
「…もういいよ。寝なよ花里」
「そこに…いてくれる?」
「寝るまでなら」
「…幸せ…だな…」

…お前は本当に
「…気持ちの悪いやつだな」
「……うん、ふふ……うん…」

かなり粘っていたが、ゆっくりと瞳を閉じる。
はぁと長めの息を吐く。


「ありがとう花里。おやすみ」
「……死んでも…ずっと……ひかるくんの…味方…」

花里の冷えた手が、僕の手から滑り落ちた。

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