いつどこで誰が何をした


「ひかるさん」
下駄箱で久遠さんに呼び止められる。
「ん、何?」
彼女は何を考えているのかわからない、喜怒哀楽の薄い表情で僕を見ている。

「…少し、お話ししたいことが」

「いいよ」



生徒玄関の外にあるベンチ。
そこに2人で腰掛ける。
久遠さんはグッと拳を握っている。

「……本当は…今朝、言おうと思ってたんです」
「ん?」
「…なかなか言い出せず…今になってしまいました。でも、自分が明日生きているかわからないので…全て話します」

そんな顔できたんだ。
久遠さんは力強い目で僕を真っ直ぐ見た。


「…兄が死にました」

……え?
「朝…研究所で…兄が死んでいました」
……。


「今朝、私のスマホに兄からのメールが入っていました…。中身は…遺書でした」
遺書?
「慌てて研究所に行ったら……兄は…死んでいました」
昨日僕らに会った後…?
「何故死んだのかは分かりません…。私は医者ではないので死因は見てもわからなかった…。でも…眠るように…椅子の上で…」

遺書ってことは…自殺?…いや違うな。
Mo153を抹消すると宣言していた。このタイミングで自殺するわけがない。

殺されたのか…犯人に。
おそらく、僕に情報を渡したから…

「おそらく、兄は自分の身に何かあったら自動的に私に遺書が送信されるようにしておいたんだと思います」
なるほど。殺されるのは想定の範囲内だったってことか。
その上で僕に話してくれたのか…


「兄の知る事実は全て遺書の中にありました。私は…兄がこのゲームにこんなに深く関わっていたことを知らなかった…。書いてあったこと、全てお伝えします。

過去、Mo153が完成した時、加賀山秀行代表が不可能を可能にする装置の危険性を考え、Mo153のプログラムを抹消しようとした。兄は長期にわたる研究の末、やっと完成したMo153をドブに捨てるなど愚の骨頂だと主張し、言い争いになったそうです。
我を失った兄はプログラムのデータと本体を持って逃亡。そしてそれを協力者であった他の研究員に渡したそうです」

他の研究員…

「…その研究員が犯人と繋がっていたそうです。そこから犯人にMo153が渡った。兄はこんなゲームが計画されていることなど知らなかったので、その研究員に加賀山代表から逃げるよう告げたそうです。
山の中で兄と揉み合いになった加賀山代表は、そのまま岩で頭を打って死亡…。そしてその事実を隠蔽する代わりに…犯人に直接協力を煽られた。断れば命はないと……そして犯人は兄の人質として…私をゲームの参加者にした」

なるほど。ピースが埋まった。
犯人にMo153が渡った経緯。
綾人さんが犯人の情報を知っていた理由。
久遠さんの転入からゲームが始まった理由。


「……あの時、自分が加賀山代表の意見に従っていたらこんなことにはならなかった。目先の成果に囚われて、プログラムがもたらす悲劇を予測できなかった。そのせいで多くの人を犠牲にしたことを酷く後悔している…と…書かれていました。
そして最後に……Mo153のデータを全消去する方法も」

話しながら、久遠さんの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。

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