いつどこで誰が何をした
「……兄の遺書にあった情報は以上です」
「…ありがとう、話してくれて」
久遠さんの肩が小刻みに震える。
もう堪えることはやめ、ボロボロと涙を流し始めた。
「ごめんなさい……ごめん、なさいっ」
「なんで久遠さんが謝るの」
「兄が……この悲劇をもたらしてしまった……私の家族が…みんなを……殺してしまった……」
…。
そんなことないよなんて薄っぺらい慰めの言葉、なんの価値もないか。
「久遠さん。一番悪いの誰だと思う?」
「……え」
「誰だと思う?」
久遠さんはギリっと唇を噛んだ。
「…犯、人ッ…」
恨み憎しみ悔い悲しみ、それら全てを込めた久遠さんの瞳。
「じゃあ全部そいつのせいにしよ。何もかも、世の中の悪いことぜーんぶ、そいつのせい」
「……うっ…うぅ…あ…」
「ほらもう泣くなよ」
ハンカチはこの前ここで柿田に渡してしまったのでもうない。
だから僕は自分の手の甲で久遠さんの涙を拭う。
「ひかっるさっ…うっ」
「大丈夫。僕らは絶対負けない。僕が言うんなら、久遠さんは信じてくれるんだろ」
「…はいっ……は、い…っ」
「殺してあげるよ。君が心の底から恨む人間を」
「………お願い…します…ッ」
久遠さんが僕の手を掴んだ。そのまま僕の肩に自分の額を預ける。
目の前のふわふわの髪からフローラルな香り。
とか言って、フローラルな香りがどんな香りなのかよく分かってないけど。
僕は久遠さんの頭に自分の手を乗せる。
ぎこちなく撫でる。
ぎこちなく…抱きしめる。
よかった。抱きしめ方を知っておいて。
君は…よく頑張ってるよ。
転校してきたばかりで、知らないクラスメイトと環境の中で…よくここまで生き残ってる。
君が僕といることを選んだからだよと言ってあげられるように…僕は勝たなければならない。
「…僕は綾人さんに頼まれたんだ。君を守るように」
「………兄…さん…ッ」
「正直、約束はできない。でも…ゲームが終わるまで、どうか僕を信じて離れないで」
「言われなくてもそのつもりです」
「……確かに僕は、みんなと少し違うかもしれない。でも…クラスメイトに死んで欲しくないと思う気持ちだけは…本物なんだ」
「…分かってます、分かってますよひかるさん」
そう…その気持ち だけ はね。
久遠さんは僕に身体ごと預ける。
その華奢な身体を抱きながら、僕は校舎を見た。