いつどこで誰が何をした


「まあ……きっとあなたは、使わないでしょうけど」


え…?

久遠さんは少し怪しげに笑った。


「私、お役に立てましたか?」
「…あー…もしかして気づいてた?」
「ええ。これでも私、ゲームが始まってからのひかるさんを一番近くで見ていたつもりなので」
「……そうだね」
僕たちの中身の見えない会話に成川が首を傾げる。


「……はっきり言って、あなたほど非人道的な、道徳に欠けた人間を見たのは初めてです」
「そっか」
「あなたに対する私の恋心を利用したんですね。この後、成川智を倒すために」
「まあね」
「さいてー」
「ごめんね」

久遠さんはクスリと笑った。

「…許しませんよ。呪ってやる」
「はは、勘弁してよ」
「……仕方ないので利用されてあげます。だから、そこにいるゴミ屑のような無価値な男に、地獄を見せてあげてください」
「…仰せのままに」



「……私、ひかるさんのこと、本当に好きでした」
「うん。だと思った」

「あなたが私を好きだと言ったのは…本心ですか?」
「なんて言って欲しい?」
「質問に質問で返さないでください」
「最後くらい君が欲しい言葉をかけてあげようと思って」
「……このクズ」
「ごめんね」


久遠さんの頬を、涙が伝った。

「じゃあ……好きだと言ってください。心から、私を愛していると、私が死んだら…悲しいと…嘘でもいいので…言ってください」

……

「久遠さんが好きだよ。心から愛してるよ。君が死んだら悲しい」
「…シナリオ通り過ぎます」
「えー女の子って難しいな」


「…それでも私、ひかるさんを好きになってよかったです」
「…そう?」
「ええ。生まれ変わったら…間違ってもひかるさんみたいな人に恋をしないよう、気をつけられるので」
「いい教訓ってこと?」
「はい。『恋は盲目、目を覚ませ』という教訓です」

歯を見せて笑う久遠さん。
……そろそろ、時間だ。


「久遠さん」
「なに?」
「好きだよ」
「…………ずるいですね…ほんっとうに…ずるい最低な人ですね」
「ごめん」

「……私も、大好きです。この上ないほど…あなたを愛しています」
「……」


「さようなら。ひかるさん」
「…さよなら。久遠さん」



教室の真ん中にいる僕と教卓の横にいる彼女の距離は、決して近くない。
手を伸ばしても届かない場所にいる。
崩れ落ちる彼女を支えようにも……間に合いそうにない。


彼女は花のように笑い

眠るように…その場に横たわった。



残り、2人。

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