いつどこで誰が何をした


返さない…か。
いや

「それはやめた方がいいかもしれない」

「え?」
クラスメイトの視線が一斉に僕に集まった。


「なんで?ひかる」
片桐が首を傾げる。
「えっと、話すとちょっとかかるんだけど…まず野々村の死にはあのメッセージが関係してる。そうはっきり言える根拠があって…
さっき教室を出る前…野々村のスマホが鳴ったんだ」

ざわつきが大きくなる。
檜山が顔を上げた。

「あのタイミングだったからおそらくこの…『いつどこで誰が何をした』に関係ある事だと思って…でも野々村のしか鳴らなかった。
だからもし…手がかりが掴めるならと思って、野々村のスマホを見に行ったんだ」

ざわっ
視線が痛いほど突き刺さってくる。
そりゃそうだよね、あんな血だらけのところに入っていったの?ってなるよね。

「…だから…手洗ってきたのか…?」
隣の祐樹がボソリとつぶやいた。


「携帯を取り出したら勝手に画面がついて、そこにGAME OVERって。それと出席番号…だと思うんだけど、縦に数字が並んでて野々村の番号のところにばつ印」

「…ゲーム…オーバー?」
片桐が繰り返す。
「数字…ばつ印…」
佐滝が何か考え込むように下を向く。


「そして、あと二つばつ印があった」
「…どこ?」
枕崎が真剣な表情で僕を見る。

「…13と14のところ。瀬尾と多田の番号だよ」
再びざわめきが広がる。
一際大きく息を呑んだのは梅原七菜香。多田とよく話していた子だ。

「瀬尾くんと多田さん?なんで」
「ゲームオーバー?ってことなの?」
「今日いない…よね」
うん。このゲームが始まった日からいない。


「僕、昨日美術室でたまたま多田のスマホを見つけたんだ。どうやらその日はずっと学校にあったらしく返信できなかったみたいで…表示された画面は野々村のと一緒。ゲームオーバーの文字と数字列」

「…それって」
青い顔をして時川が僕の目を見た。

「多田は返信できなくてゲームオーバーになった。そしてその日から学校に来ていない。理由も不明」
「まさか…野々村と同じ状態…かもしれないって事?」
片桐が魂の抜けたような声を出した。
「うん」


「いやああああ!」
頭を抱えて悲鳴を上げる中谷。
「何これ!!いやだ!やだぁ!」
深川亜由も取り乱してうずくまっている。
「怖い!怖いよ!!」
「落ち着くんだ」
辻原が涙をボロボロと流し、秋沢に縋り付く。
クラスメイトたちが恐怖に顔を歪ませる。


「確実とは言えないけど…返信しないって言うのは危ないかもしれない。多田と瀬尾の生存を確認できないから…」
「…じゃあ…今日の夜…もしRINEが来たら…」
祐樹が僕のズボンを引っ張る。
ピンと張る空気。

「返そう」
枕崎が言った。
片桐と僕も頷く。


重く濁った鉛のような空気が、慣れない教室を包んでいた。



< 50 / 334 >

この作品をシェア

pagetop