いつどこで誰が何をした
しんとする教室。
みんながおずおずと大本を見る。
「…誰だ」
え?
低い声が響く。声の主は大本。
ゾッとするような視線で周りを見ている。
「俺の名前を入れたやつは誰だ!!」
うわまじか。
「出てこい!!昨日の夜!『誰が』に俺を指名したやつ!今すぐ出てこい!」
彼はガタイもいい上に性格も荒い。
こうなると洒落にならないくらい怖い。
だからだろうな。
だから選ばれたんだ。
いない方がいい、いなくなってもいい、そう思う奴がいたんだよ。
だから名前を入力した人間がいたんだ。
因果応報、その結果がこれだよ。
出てきたところでどうにかなるわけでもないのに
大本は席を立ち、鬼の形相でクラスメイトを睨みつける。
「お前か!成川!」
大股で成川に近づき、すごい勢いで胸ぐらを掴み上げた。
成川がブンっと降られて机にぶつかる。
「ち、違うよ!僕じゃない!」
成川智。小柄でヒョロっとしたおとなしい生徒。
物静かであまり喋ったことがない陰の薄いタイプ。
まあ確かに大本みたいなタイプを嫌うのはおとなしい子だよね。
いつも変に絡まれてるし、恨みを買ってるのはわかってたんだね。
舌打ちをして成川を捨てる大本。尻餅をついて顔を歪ませる成川を隣の席の立花が支える。
と、大本の斜め後ろの席に座る小塚が小刻みに震えていた。
その変化を大本は見逃さなかった。
「おい、何震えてんだ?お前だな?お前なんだな小塚!」
「ひっ…」
机にぶつかりながら大股で小塚に近づく。
ぐいっとふくよかな体型をしている小塚が少し浮くくらいの力で胸ぐらを掴み上げる。
「俺に死ねって言ってんだよな?だったらテメェも殺される覚悟くらいあるよなぁ!」
狂気じみた気色の悪い目を小塚に向けて拳を振り上げる。
「ぼ、僕は違うよ!どこでだったから教室って…」
「うるせぇ!!」
「やめろよ大本!」
「…あ?」
慌てて片桐が大本と小塚の間に牽制に入る。
「そりゃ呑気に見てられるよな?委員長さんよぉ。だって自分は関係ないんだからなぁ?」
「そんなこと言ってないだろ」
「他の奴らもそうだ!関係ないから!自分じゃなくてよかったって思ってんだろ!!」
猪の如く吠え散らかす大男。
クラスメイトは視線を逸らす。
「お前ら全員安心してんだろ!!」
そんなの
当たり前だろ。
お前だってそうだったろ?
昨日、梅原が指名された時
ほっとしたんだろ?
野々村みたいになったのが自分じゃなくてよかったって思ってたんだろ?
同罪だよ。
今更何ほざいてんだよ。
俺らは皆鴨なんだよ。
犯人の掌の上で転がされる仔犬。
遠吠えをあげたってなんの意味もない。
滑稽だよ。
泳げよ。
夜に校長室で。
それしかお前の生きられる道はないんだからさ。