いつどこで誰が何をした


「……おい…何笑ってんだよ」


大本の声のトーンが下がる。
小塚ではない方向を向いてそんなことを言った。

「おめぇだよ…ひかる」
え?
「おい!!」

うわっ
狂った気持ち悪い顔を向けた大本が僕の胸ぐらを思い切り掴み上げる。
小塚より小柄な僕はバビュンと体が大きく動き、大本の唾が掛かる位置で止まる。


「何笑ってんだよ!ふざけてんのか!?お前もか!お前もなんだな!?ひかる!ぶっ殺してやる!!」

「やめろ!大本!やめてくれ!」
ガタンと席を立ち、祐樹が大本の腕にしがみついて叫んだ。
「落ち着け!」
片桐がもう片方の腕にしがみつくが、大本はクラス1の大男。そんなんではびくともしない。

「ひかるさんっ」
久遠さんの怯えた声。

視界の端で梅原や枕崎、山野と柳谷までも
何人かのクラスメイトがなんとかしようと動いてくれる。


「殺してやる殺してやる!」
「う…あ"」
大本が僕の首を絞める。
息が詰まって変な感覚になる。

「頼む!やめてくれ!大本!!」
祐樹が泣きそうになりながら大本を引っ張る。
「いい加減にしろ!」
佐滝とよしきが加わってそれなりにガタイのいい男子生徒が止めようとするが、怒り狂った大男を抑えるのは困難な話だ。


息が詰まる。
まじでやばい。
こいつ本気だ。
カハッと少ない息を吸う。

「ひかるくん!!」
意外なことに花里までもが参戦して大本に喰らいつく。
しかし案の定状況は変わらない。

まずい…他人に任せてはいられなさそうだ。
自分でもなんとかしなきゃ…



「お、もと…い、いの?」
「…あ"?」

大本の腕を掴んだ自分の手に力を入れて爪を立てる。しばらく切ってなかった人より鋭い僕の爪がその太い腕に食い込む。
大本が痛みに顔を歪ませて少し力が緩まった。

その隙を盗んで大きく息を吸い、目をかっ開いて大本を下から抉るように見る。
「っ…」
大本の力がさらに緩まる。


「泳がせてくださいって…校長に頼んできなよ…
でなきゃ死ぬよ、お前…ふはっ」
大本の血走った目を見て思わず笑いが溢れた。


自分でもなんでこんな発言をしたのか分からない。冷静を失っているサイコな人間にこんな挑発をしたら首と胴体を引きちぎられたって納得できる。

それでも無意味に必死になっている大本の表情があまりにも滑稽で、思わず腹の底から笑いが込み上げてきてしまったのだ。


やべ、殺されるかも
と思ったけれど、大本は目を丸くして僕を凝視しているだけ。
その腕の力が完全に緩まる。

「……ひかる…お前」
変な汗が大本のこめかみを伝う。まるで殺人現場でも見たみたいな顔を僕に向けるもんだから、それがまたおかしくって。
こてんと首を傾げてみれば


「大本!!」
「ひかる!大丈夫か!」

僕の言葉が聞こえていなかった周りの連中が、やっとのことで少し大本と僕の距離を広げる。

そこに東坡がやってきてぐんっと大本を押したことでようやく完全に引き剥がされた。


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