初めての恋はあなたとしたい
たっくんへの気持ちがお兄ちゃんとは違うものだとちゃんと気がついてからもう5年? その間に彼女がいた話も何度も聞いている。聞くたびに私は胸の奥がぎゅっと締め付けられ、苦しくなっていた。いつか彼が私の知らない人と結ばれてしまうのではないかと気が気ではなかった。私の気持ちを伝えようと思った時期もあるが、子供の戯言だと言われてしまうのではないかと言えずにいた。言わなければ何も変わらないと分かっている。でも言ったら今の関係は終わってしまうかもしれない。そう考えるだけで行動に移せなかった。幼稚園の頃は「たっくんと結婚する」と言っていたはずなのに、今は口に出すことは愚か、顔に出さないように気をつけている。
はぁ……。
私は行き場のないこの気持ちにため息が出てしまう。
目の前に、こんなに好きな人がいるのにどうにもならないなんて……。

「美花ちゃん! ほら陽が落ちるよ」

ふと気がつくとほとんど陽が沈み、先ほどまで赤かった空が深い青色に変わっていた。

「マジックアワーの中でもブルーアワーと呼ばれる時間なんだ。いつも見れるわけじゃない。ラッキーだな」

色の変化がとても綺麗で、なんだか神秘的。人の手では操作できない自然の偉大さに気付かされた気がする。
魅入っていたがあっという間に陽は沈み、灯りが照らされ夜景へと変化した。

「はい、これ就職祝い」

たっくんは手にしていた紙袋を渡してくれた。

「うわぁ、なんだろう。ありがとう」

「さすが拓巳だな。そのブランドじゃ高いだろう?」

「あの小さかった美花ちゃんの就職祝いだから、奮発したんだよ」

また小さい頃の話……。
どうしてもふたりにとっては小さい私のイメージしかないみたい。
諦めにも似た気持ちで紙袋の中からプレゼントを取り出した。

「あ……! ショルダーバッグ?」

「あぁ。仕事で使えると思って。どうかな?」

まだ働き始めたばかりの私には手が届かないブランドで、使いやすいと評判の商品だ。レザーのショルダーバッグは2wayで色々な使い方ができそう。グレージュで洋服にも合わせやすい。それよりなにより、彼が私のことを考えて買ってきてくれたのだと思うだけでジャンプしたくなるくらい嬉しい。

「ありがとう! 大切にする!」

私は胸にぎゅっと抱くとたっくんにお礼を言った。

「良かったよ」

大きく頷いていて、私の気持ちが伝わったようだ。
< 11 / 56 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop