初めての恋はあなたとしたい
週明け、早速たっくんにもらったバッグを肩にかけ出勤した。
彼が選んだものだと思うだけで嬉しくて涙が出そう。飾っておきたいけれど、きっと使っている姿を見せた方が喜ぶに決まってる、と思い電車の中でも抱えていた。

「今日はスペインからサッカーチームが到着されますよね? 会見もあるし忙しくなりますね」

「そうね。副社長もお出迎えされるって聞いているわ」

「え?」

驚いた。昨日そんな話は全くしていなかったのに……。

「週末、急に決まったみたいなのよ。久しぶりに副社長が来るのね」

なんだか望月さんの嬉しそうな声に驚いてしまう。アーティストやスポーツ選手、それこそ各国の代表となる人たちを多くお迎えしているので有名な人にはたくさん会っている。望月さんはどんな人が来ても常に冷静で笑顔を浮かべていた。でもそれは偽物で、時折仕事ではない時に見せる笑顔とは違うものだった。それなのにたっくんが来ると話した時は素の笑顔だ。私の様子に気がついた彼女は、

「どれだけ有名な人に会っても、所詮仕事だとしか思えないんだけど、副社長って私たちスタッフにも気さくに声をかけてくれるから身近なアイドルっていうか……ね」

それには私も頷いた。
空港を訪れる有名人は、もう別格だ。ファンが出待ちしている姿には圧倒されてしまう。
でも副社長としての彼だって圧倒的なオーラはあるが、周囲に話しかけ笑い合う姿にどこか親近感を覚える。だからこそ望月さんは身近なアイドルと例えるのだろう。普段の彼を知っている私は気さくなことも優しいことも、周りをよく見ていることだって知っている。でも私だけが知っているわけではないのだと改めて感じ、胸の奥が重苦しい。

「さ、そろそろ会場に向かいましょう。遅れるわけにはいかないわ」

望月さんに声をかけられ、部署のみんなが立ち上がった。
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