初めての恋はあなたとしたい
翌日、お昼に食堂へ向かうと曽根さんは入り口で待っていてくれていた。
今日は制服でなく、スーツを着ていたので社内勤務なのだろうと思った。

「お疲れ様です」

「お疲れさま。会えて良かったよ。とりあえず食べながら話そう。今はカレーフェアらしいな」

確かにカレーの匂いがエレベーターを降りたところからずっとしていた。
匂いに惹かれるように私と曽根さんはふたり、スープカレーを選ぶと窓際の席へ座った。

「はい、昨日話してたお土産」

ブルーの紙袋を差し出され、私は受け取った。中身を覗き込むと3つの箱が見える。

「スペインはオリーブオイルが有名なんだ。最近そのお店は人気らしくてさ。よかったら使ってみて」

取り出してみるとリップとハンドクリーム、石鹸が入っていた。

「こんなに? ありがとうございます。使うのが楽しみです」

「気に入ったらまた買ってきてあげるよ。ヨーロッパ路線は最近多いから」

「凄いですね。身近にパイロットさんがいるなんて不思議。最初同席した時にはパイロットさんだと思いもしなかったです……あ、ごめんなさい」

思わず言ってしまったが、とても失礼だと反省する。

「いいんだよ。パイロットだって特別な訳じゃ無い。空港で働くみんなと同じだよ。もちろん仕事に誇りを持っているけど、反対にこんな自分を羨望の眼差しで見られていると考えると恥ずかしくなるんだ」

ハハハ、と笑いながら話す曽根さんは好青年と言った雰囲気だ。もちろんパイロットという仕事にプライドを持っているのはわかるが、私たちと同じ空港で働く人間と言ってくれたのがなんだかとても嬉しかった。私の仕事を卑下するわけでは無いが、やっぱりどこかでパイロットやCAは花形で、そのほかの人たちとはどこか違うと感じてしまっていたから。30を過ぎ、余裕さえ感じる彼から出た言葉に私はなんだか心のどこかが温かくなった。
いつものように他愛のない会話をしているとあっという間に昼休みは終わってしまう。

「美花ちゃん。話は尽きないし、今度改めてゆっくり食べに行かない? それこそ美味しいパエリアのお店があるんだ。スペイン人がやってるから日本にいても本格的なんだ」

「おいしそう!」

「実はかなりおすすめでさ。シフト見て、候補の日を伝えたいからIDの交換しない?」

なんとなく周りの視線が気になったが、ざわつく食堂でのこと。私はスマホを取り出すと連絡先を交換しあった。
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