初めての恋はあなたとしたい
「はい、お疲れさん」

ビールグラスをカチンと合わせた。

「それで、最近のため息はどうした?」

いきなり本題から切り込まれ、思わずむせた。

「ちょっと」

「いや、回りくどく聞くよりストレートなほうがいいだろ? でも話したくないなら深掘りしないけど、誰かに話せば楽になるんじゃない?」

うん……そうかもしれない。
私の中で色々な感情が渦巻いているから、知らず知らずのうちにため息が漏れてしまっているのだろう。誰かにこの気持ちを聞いてもらったら楽になるのかもしれない。

「実はね、失恋しそうなの。ずっと好きだった人が結婚しちゃうのかもしれない」

「そうか」

「相手はすごく美人で、彼とお似合いなの」

「ふぅーん。それで前田は何もせず退散するの?」

「だって……! すごくお似合いなんだよ」

私はビールを煽った。

「でも整理がつかないからため息が出てるんだろ? 前田は何かしたの?」

その通り。
整理なんてつくはずない。いつかこんな日が来るとは思っていたけど、いざとなると言い様のない気持ちが胸の奥を締め付ける。苦しくてもどかしい。気持ちが沈み込み、自分の力では浮上出来ない。
黙り込む私に夏木くんはさらに切り込む。

「何も動かないで見てるだけ? それじゃいつまでも吹っ切れるわけがない。後悔したくないなら動くべきだと思うぞ」

夏木くんの言いたいことはわかる。
でもこの気持ちをたっくんにぶつけるのが怖い。今の関係を壊したくない。

「できない……」

「なんで?」

「今の関係を壊したくない」

はぁ……。
夏木くんはため息をこぼす。

「今の関係を壊さないなんてどのみち無理だろ? 相手が結婚して幸せそうな顔してるのを近くで笑って見ていられるのか? 無理なら今の関係なんて崩れるのはわかってるんだ。だったら後悔しないように俺なら動くけどな」

いつになく強気の夏木くんに私の心は揺さぶられた。
あの写真を見てお似合いの2人だと思った。でもたっくんからあの女優さんを紹介されて、私は笑顔でいる自信がない。今までのように妹の立ち位置ではいられないと思う。
それなら結果は同じなのかもしれない。
今の関係なんて崩れてしまうなら、後悔しないように気持ちを伝えてもいいのかもしれない。
たっくんがいつかはこうして結婚するのは分かっていた。でも見ているだけで私の気持ちはどこにいけばいいの? 私の心が壊れてしまわないように動いてみてもいいのかな。
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