初めての恋はあなたとしたい
翌朝、目を腫らして起きてくるとお兄ちゃんがびっくりしていた。

「どうしたんだ? ブサイクになってるぞ」

「うるさいなぁ。映画見てボロ泣きしたまま寝たからだよ」

私はタオルに保冷剤を包むと目に当てながら温かいお茶を飲んだ。
昨日はあのあとたっくんが家の前まで送り届けてくれた。
もちろんそれだけ。
車から降りる時、一瞬腕を掴まれたので驚いた。けれどその手はすぐに離され、「またな」と言われ車は発進してしまった。

部屋に戻ると私は布団の中に潜り込むと声を押し殺して泣いた。
私には手の届かない存在だったのだと自分に言い聞かせても、悲しくて、寂しくて、やるせなくて溢れ出る涙を止めることができなかった。
本当にたっくんが好きだった。
女優さんとの写真を目にした時に諦めようと思った。今までは彼の役に立てたらそれでいいと思っていたはずなのに夢を抱いてしまった。
でもやっぱり無理な話だった。
彼にとって私は妹でしかないのだとよく分かった。私はたっくんとあの女優さんとの仲を笑ってお祝いしなければならないのかもと思うとまた目が潤んでしまう。
久しぶりの土日休みなのに気分は最悪だ。
ペットボトルを冷蔵庫から取り出すと部屋へ戻った。ベッドに座るとスマホがメッセージを受信していることに気がついた。見ると夏木くんからだった。

【今日のサッカー観戦のチケットをもらったんだ。行かないか?】

寒いし、今の気分では行きたいと思えないが、この前来日した選手たちの試合らしく少しだけ興味が湧いた。

【何時から? どうしようかなぁ】

そう返信するとすぐに電話がかかってきた。

『18時からだけどどう? 実は田代から譲られたんだよ。彼女の都合で行けなくなったらしくてさ。人気のチケットだし勿体無いなぁと思って』

「そっか」

『気分転換にどう?』

きっとこの前、私に思いを伝えた方がいいと言ってくれてから気にかけていてくれたんだろうと思う。せっかく同期の田代くんから譲って貰ったし、意外とモテる夏木くんなら他にも誘いたい人はいるだろうに、私を誘ってくれるなんて心配をかけちゃってるんだなと思った。
うん、気分転換が必要かも。
このままじゃ今日も明日の休みも泣いて過ごすことになりそうだもん。
夏木くんと待ち合わせの約束をするとベッドに横になり目をクーリングした。
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