初めての恋はあなたとしたい
美花は俺たちが帰ってくるのを心待ちにするようになった。
私立に通っている俺は祐樹よりも帰宅が遅いため毎日は見に行けない。けど合間を見ては遊びに行くため俺のことをちゃんと覚えてくれるようになった。
2歳になり、だいぶ話す言葉もわかるようになってきた。

「たっくん。あっち」

指差した方を見ると滑り台がある。

「美花、乗りたいの?」

「うん」

俺の手をぎゅっと握りしめてきた。まだちゃんと手も繋げないほどの小さな手。俺の人差し指と中指を握るのがやっとだ。そんな手にせがまれてしまうと嫌とはいえない。むしろ嬉しくて仕方ない。
滑り台について行き、一緒に滑ると下では抱き止めようと祐樹がスタンバイしていた。
俺たちふたりは兄バカだと思った。

「にに、しゅーするよ」

祐樹に行くと言ってるのか。
拙い言葉が何ともいえず可愛らしい。
滑り終わると祐樹が立ち上がらせる。するとまた階段へよたよたとまわり込んできて、もう一回とせがんでくる。
この小さなお姫様に俺たちは振り回されっぱなしだった。

高校生になった俺たちはやはり学校は違うものの、放課後は一緒に過ごすことが多かった。

「お兄ちゃん、宿題教えてよ」

祐樹の部屋でゲームをしていると美花が入ってくる。

「あとで、な。今忙しいんだよ」

祐樹は夢中になってコントローラーを動かしている。

「イジワル」

美花は不貞腐れ気味に祐樹に言うが、ゲームに夢中のため聞こえていない。

「美花、俺が見てやるよ」

手にしていたノートを見ると算数の宿題らしい。文章題が苦手なのか解けていない問題がいくつかあった。
おやつが置いてあったテーブルを片付けると美花は隣に並んで座り説明を聞く。その姿が何とも可愛らしい。
何をしていても可愛く見えてしまうなんてちょっとおかしいのかもしれない、と自嘲し心の中で笑ってしまう。

「やっぱりたっくんは優しい。教え方もお兄ちゃんより上手!」

そんな声を聞き、祐樹はゲームをしながら口を挟む。

「拓巳は頭のいい学校行ってるんだから俺とは違うんだよ」

「頭だけじゃないもん。たっくんは優しいもん」

美佳の言葉に嬉しくて胸が弾む。小学生の言葉ひとつに心躍らすなんて自分はおかしいのだと思う。でも兄として頼られてるのだと思うと嬉しかった。
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