初めての恋はあなたとしたい
職場を出るとようやく大きく息を吐き、肩の力が抜けた。
はぁ……。
人の噂も七十五日というけれど、そんなに続くのかと思うだけでまたため息が出そうになる。
改札を通り、ホームで電車を待っているとバッグの中でスマホが震えるのを感じた。
取り出し、確認すると電話ではなくメッセージの受信だった。

【ごめん、今日は悪かった。ゆっくり話がしたい。時間をもらえないか?】

メッセージを読み、ドキッとした。
たっくんだ……。
放っておいて、と言ったのになぜ連絡をしてきたの?
既読がついたのを見たのか、私がスマホを手にしていると気づき、すぐに電話を鳴らしてきた。
ビクッとして画面に出ている彼の名前を見つめていたが、出るのを躊躇う。そのうちに切れてしまった。
慌てて私は取ってつけたように返信をした。

【ごめんなさい、今電車の中なの】

メッセージの返事は返すことなく、ただ電話に出なかった謝罪だけした。すると何故かまたすぐに返信がきた。

【わかった。なら最寄りの駅で待ってるから】

え? どういうこと?
私は電話に出られないのを謝っただけで、彼との時間を作るなんて言っていない。
でも、もう決定事項のように彼は私を改札で待つらしい。
ここで「会いたくない」と言えればいいのだが、私にはそんな言葉を強く言えない。
でも今から会うなんて心の準備が間に合わない。会って何をするっていうの?
電車に揺られ30分もすると最寄りの駅に着いてしまった。
改札を抜けると、ロータリーには彼愛用のRV車が止まっていた。窓が開き、彼が助手席側から乗り出すように顔を出した。

「こっち」

私は小さく頷いた。
車を見た時から彼のだって分かってたけど足取りが重かっただけ。
彼の車を見た瞬間から胸が不覚にもまたドキドキしてしまい、気持ちの整理がつかずにいた。
彼と目が合うだけで、会いたくないと思っていたはずなのに胸が締め付けられるように苦しくなってしまう。
助手席に座るよう促され、シートベルトをすると車は発進してしまう。

「どこに行くの? 今日は帰りたい……」

小さな声でそう訴えると

「すまない。でも今日話さないと後悔する気がする。少しだけ話したいんだ」

いつもより強引な行動に驚き、何も答えずにいると、了承と受け取ったのかそのまま車は街の高台にある公園の駐車場に停まった。
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