初めての恋はあなたとしたい
何度も角度を変え、貪るように重ねてくる拓巳くんはもう私の知っている彼ではなかった。
お兄ちゃんのような存在ではなく、男だった。
私との関係性が変わったのだと感じた。

「美花……美花……」

何度も何度もキスの合間に私名前を呼ぶ。
頭を抱えられ、繰り返すキスに私の息が上がってくる。

「はぁ…ん」

私の声にならないくぐもった声が耳に入った。この甘ったるい声が自分のものだと思えないくらい恥ずかしくて、思わず拓巳くんから離れようとするが、ますます距離は詰められた。

「離さない」

私を求めてくれているのだと感じ、喉の奥がギュッと締め付けられる。
どれだけ唇を合わせていたのだろう。
ようやく彼の手が緩んだ。

「ごめん。やっと美花がここにいると思ったら我慢できなくて。カッコ悪いな」

副社長として凛としている拓巳くんとも、お兄ちゃんと話す時とも違う。少しはにかむような表情を浮かべていた。

「やっと拓巳くんに追いついた」

私の言葉に拓巳くんは驚いたような顔をしていた。

「ずっと拓巳くんに追いつけないと思ってた。追いかける一方なんだって諦めてた。でもどうしても諦めきれない自分もいて……。何だか矛盾してるでしょ?」

「いや。俺だって妹のような存在だって思おうとしてた。思わなきゃならないって自分を抑えてた。でも、頭では分かっていても心は違った。美花をずっと見続けてきた。もう我慢の限界だった」 

彼の本音が聞けてとても嬉しい。
胸の高鳴りは鳴りやまず、苦しいくらい。今までの人生で1番嬉しい時だと実感した。思わずそれを口に出すと、拓巳くんは笑っていた。

「今が1番じゃない。今日がスタートライン。これからもっと幸せにするから。嬉しいことも楽しいことも一緒に過ごそう」

私は大きく頷いた。

「今日はこのまま返したくないけど、でもきちんとしたいから我慢する。改めてデートから始めよう」

やっぱり真面目な拓巳くん。ハメを外したいけど外せないって前にお兄ちゃんと話していた。でも真面目で悪いことなんてない。

「うん。楽しみにしてるね」

私がそう返すと大きく頷いていた。

その後、拓巳くんはマンションの中にあるレストランからデリバリーをしてもらい、ふたりでソファに座りながら夜景を見ながら夕飯を食べた。
家まで彼の車で送ってもらうと、遅くなったから両親に挨拶をすると言われたが、何だかとてつもなく恥ずかしくなり、大丈夫だから、と帰ってもらった。
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