初めての恋はあなたとしたい
翌朝出勤すると夏木くんにすぐ声をかけられた。

「何だか昨日と打って変わって顔色いいな。どうした?」

するどい……。

「そう? なんだかよく眠れたからかな」

「違うな。何がいいことがあったんだろ? 副社長も帰国したしな」

何で拓巳くんの話が出るの?
ギクリとしながら夏木くんを見るとニヤニヤした顔をしていた。彼に拓巳くんの話をしたことはないのに。

「ま、でも良かったな。何かあればいつでも相談にのるからな」

そう言うと私の返事を待たず、頭をガシガシかき回されると自席へ行ってしまった。
もう! 
朝きちんと整えてきたばかりなのに、とむくれながら手櫛でさっと直した。
それにしても夏木くんってば朝からドキッとさせるわ。
私は昨日の夜を思い出してしまい、顔がほてってくるのを感じた。

仕事はいつもに増して捗り、体調がいい。
周りからも「何かあった?」聞かれるくらい。
そんなに最近の私は不調だったのかと無自覚ながら反省した。
私生活を仕事に持ち出さないようにしなければ、と気を引き締めた。

週末を指折り数え、心待ちにしているがその間も朝に晩にと拓巳くんからメッセージが届く。他愛のない話だったり、おはようやおやすみといったものだったりするのだが、今までとの関係が変わったのだと実感させられる。

いよいよ明日は土曜日。
何を着ていこうかとクローゼットを開け閉めしながら思案する。
デートと言われ、行くのは美術館とレストラン。車で行くし、少しくらいヒールがあっても疲れないだろう。それよりも可愛く見られたい。
オフホワイトのニットワンピースにタイツ、ブーツ。コートは今年買ったベージュのロングコートを合わせる。バッグは小ぶりなワインレッドのものを選んだ。

【明日9時に迎えに行くな】

いつもより遅めの時間にメッセージが届いた。

【うん。また明日ね】
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