初めての恋はあなたとしたい
翌朝から私は空港の隣にあるビルへ出勤した。
昨日説明された通り、エントランスを抜け、会議室へ向かうと、すでに数人が先についていた。みんな新入社員なのかお互いの様子を探るようにうかがっていた。私もひとまず近くの席に座る。
しばらくすると昨日説明を受けた上司の人が来て、さらに細やかな部署の説明を受けた。
私は広報でも主にマスコミへの対応をしている部門への配属だった。
私ともうひとりが同じ配属でお互いに挨拶をすると、早速所属のフロアへと案内された。
ドキドキしながらフロアへ向かうと何やら慌ただしくみんな動き回っていたので挨拶するタイミングを掴めずにいた。
「ごめんな。実は今日このあとイギリスから有名なアーティストが来日する予定なんだ。始発でファンの子達も殺到しているし、マスコミへの対応でバタバタしているんだ」
あちらこちらで指示が飛ぶ声に私も同期の彼も呆気に取られてしまう。
「なんだかすごいな……」
ポツリと小さな声を漏らす彼に頷き、同意した。
ひとまずこのファイルでも見ていて、と渡され、私たちは隅の方でふたり並んで落ち着くのを待つことになった。
「アーティストって誰がくるんだろうね」
私がこっそり彼に話しかける。
「ごめん、あんまりアーティストって分からないんだよ。そういうのに疎くて」
「私もなの。だから広報でマスコミ対応なんてどうしたらいいのか。そもそもアーティストの名前もわからないし」
顔を見合わせて、私たちはつい笑ってしまった。
彼、夏木くんはさっき会ったばかりなのになぜかそう思えないほど親近感を覚えてしまうくらい、なんだか懐っこい感じがする。彼と同期ならお互いに頑張れるかも、と直感でそう思った。
2時間は放置されていただろうか。
私たちは渡されたファイルをめくりながら、みんなの様子を観察しているとようやく女性が私たちの元へ近づいてきた。
「お待たせしました。主任の望月です」
私たちは慌てて椅子から立ち上がるとそれぞれ自己紹介をした。
「前田美花です。よろしくお願いします」
「夏木隼人です。よろしくお願いします」
ふたり揃って頭を下げると、主任から声をかけられた。
「本当に待たせちゃってごめんなさいね。アーティストが乗るはずだった機体に不具合が出て、急に便が変更になったの。到着後に会見もあったし、スケジュールや各部門への調整に時間がかかってしまって」
なるほど。そういう仕事もするのか、と大きく頷いた。
「さて、じゃあひとまず私が案内をします。今後は前田さんは私に付いてもらうわね。夏木くんは渡辺くんに付いてもらうから後で紹介するわ」
主任に付いてビル自体の案内から始まった。どこでどんな仕事がされているのか大雑把に案内されるが、私は感心するばかりで覚えきれない。
「覚えなくてもいいのよ。ただ、こんな仕事があるんだって興味を持ってもらえたら。そんなにすぐに覚えられるものではないもの」
そう言ってもらえて助かった。
1階から見て回るだけでもかなりの人が働いている。今日だけで覚えられるような量ではない。安堵していると、私たちの顔に出たのか主任は笑いながら「あなた達似てるわね」と言われ、思わず顔を見合わせてしまった。
「ほら、やることも似てる」
気がつくと必死でメモを取っていて、見上げた姿は鏡のように似ていた。
「でも言われる前からメモを取れるのはいいことね。最近は言わないとやらない人の方が多いから。だから褒めてるのよ。でもなんでもすぐに覚えられるわけないから気負わないで。ゆっくり、確実に覚えていってね」
彼女の優しい口調に安心した。
その後も案内が続き、最後に食堂をの使い方を教わる。このまま食べていきましょう、と誘われ、先ほど習ったように社員証をかざし小鉢を取っていく。支払いは給料から天引きされていくという。まとめて給料から引かれるから後でびっくりしないように考えながらね、と説明される。確かにその場で払わないしいつも使ってるキャッシュレス決済とは違い履歴が見れないからあとからこんなに使ってたのかと思うことになりかねない。
「うちの社食は社長の指示で美味しいのよ。どこの支社に行っても同じように利用できるからいろんなところで食べてみるといいわ。わざわざ外出しなくても出張が楽しめるから」
聞くと、その土地の料理を食べられたり、時折フェアをやっていて海外の料理も食べられたりするらしい。海外からのパイロットやCAにも喜んで社食で食べてもらえるよう配慮しているようだ。私の想像では、みんな繁華街へ繰り出して美味しいものを食べてるイメージなのにそんなことはないと言う。長時間のフライトをしてきて疲れているので簡単に済ませる人も多いのだそう。空港にも社食があるが、隣のこちらのビルにもみんな来るらしいから気分やフェアの内容で使い分けていると言う。
「すごいですね」
私が感嘆の声を上げると、
「そうね。さすが蔵野グループと思うわ。働きやすいから離職率が低いのよ」
「就職率は半端なく高かったです」
夏木くんの声に私も大きく頷いた。
「私たち勝ち残ってきたんだから一緒に頑張りましょうね」
主任はガッツポーズをすると、私たちも同じようにポーズをした。
その後、主任ではなく望月さんでいいと言われ、そう呼ばせてもらうことにした。
昨日説明された通り、エントランスを抜け、会議室へ向かうと、すでに数人が先についていた。みんな新入社員なのかお互いの様子を探るようにうかがっていた。私もひとまず近くの席に座る。
しばらくすると昨日説明を受けた上司の人が来て、さらに細やかな部署の説明を受けた。
私は広報でも主にマスコミへの対応をしている部門への配属だった。
私ともうひとりが同じ配属でお互いに挨拶をすると、早速所属のフロアへと案内された。
ドキドキしながらフロアへ向かうと何やら慌ただしくみんな動き回っていたので挨拶するタイミングを掴めずにいた。
「ごめんな。実は今日このあとイギリスから有名なアーティストが来日する予定なんだ。始発でファンの子達も殺到しているし、マスコミへの対応でバタバタしているんだ」
あちらこちらで指示が飛ぶ声に私も同期の彼も呆気に取られてしまう。
「なんだかすごいな……」
ポツリと小さな声を漏らす彼に頷き、同意した。
ひとまずこのファイルでも見ていて、と渡され、私たちは隅の方でふたり並んで落ち着くのを待つことになった。
「アーティストって誰がくるんだろうね」
私がこっそり彼に話しかける。
「ごめん、あんまりアーティストって分からないんだよ。そういうのに疎くて」
「私もなの。だから広報でマスコミ対応なんてどうしたらいいのか。そもそもアーティストの名前もわからないし」
顔を見合わせて、私たちはつい笑ってしまった。
彼、夏木くんはさっき会ったばかりなのになぜかそう思えないほど親近感を覚えてしまうくらい、なんだか懐っこい感じがする。彼と同期ならお互いに頑張れるかも、と直感でそう思った。
2時間は放置されていただろうか。
私たちは渡されたファイルをめくりながら、みんなの様子を観察しているとようやく女性が私たちの元へ近づいてきた。
「お待たせしました。主任の望月です」
私たちは慌てて椅子から立ち上がるとそれぞれ自己紹介をした。
「前田美花です。よろしくお願いします」
「夏木隼人です。よろしくお願いします」
ふたり揃って頭を下げると、主任から声をかけられた。
「本当に待たせちゃってごめんなさいね。アーティストが乗るはずだった機体に不具合が出て、急に便が変更になったの。到着後に会見もあったし、スケジュールや各部門への調整に時間がかかってしまって」
なるほど。そういう仕事もするのか、と大きく頷いた。
「さて、じゃあひとまず私が案内をします。今後は前田さんは私に付いてもらうわね。夏木くんは渡辺くんに付いてもらうから後で紹介するわ」
主任に付いてビル自体の案内から始まった。どこでどんな仕事がされているのか大雑把に案内されるが、私は感心するばかりで覚えきれない。
「覚えなくてもいいのよ。ただ、こんな仕事があるんだって興味を持ってもらえたら。そんなにすぐに覚えられるものではないもの」
そう言ってもらえて助かった。
1階から見て回るだけでもかなりの人が働いている。今日だけで覚えられるような量ではない。安堵していると、私たちの顔に出たのか主任は笑いながら「あなた達似てるわね」と言われ、思わず顔を見合わせてしまった。
「ほら、やることも似てる」
気がつくと必死でメモを取っていて、見上げた姿は鏡のように似ていた。
「でも言われる前からメモを取れるのはいいことね。最近は言わないとやらない人の方が多いから。だから褒めてるのよ。でもなんでもすぐに覚えられるわけないから気負わないで。ゆっくり、確実に覚えていってね」
彼女の優しい口調に安心した。
その後も案内が続き、最後に食堂をの使い方を教わる。このまま食べていきましょう、と誘われ、先ほど習ったように社員証をかざし小鉢を取っていく。支払いは給料から天引きされていくという。まとめて給料から引かれるから後でびっくりしないように考えながらね、と説明される。確かにその場で払わないしいつも使ってるキャッシュレス決済とは違い履歴が見れないからあとからこんなに使ってたのかと思うことになりかねない。
「うちの社食は社長の指示で美味しいのよ。どこの支社に行っても同じように利用できるからいろんなところで食べてみるといいわ。わざわざ外出しなくても出張が楽しめるから」
聞くと、その土地の料理を食べられたり、時折フェアをやっていて海外の料理も食べられたりするらしい。海外からのパイロットやCAにも喜んで社食で食べてもらえるよう配慮しているようだ。私の想像では、みんな繁華街へ繰り出して美味しいものを食べてるイメージなのにそんなことはないと言う。長時間のフライトをしてきて疲れているので簡単に済ませる人も多いのだそう。空港にも社食があるが、隣のこちらのビルにもみんな来るらしいから気分やフェアの内容で使い分けていると言う。
「すごいですね」
私が感嘆の声を上げると、
「そうね。さすが蔵野グループと思うわ。働きやすいから離職率が低いのよ」
「就職率は半端なく高かったです」
夏木くんの声に私も大きく頷いた。
「私たち勝ち残ってきたんだから一緒に頑張りましょうね」
主任はガッツポーズをすると、私たちも同じようにポーズをした。
その後、主任ではなく望月さんでいいと言われ、そう呼ばせてもらうことにした。