君がくれた無垢な愛を僕は今日も抱きしめる
長谷川の運転する車で、二人は水瀬家御用達の料亭へ赴いた。
庭園の見える半個室のテーブル席に座る。当然亮平は備え付けの椅子を除いて車椅子のままだ。

「お座敷もあるけど、車椅子から降りるのが面倒で」

「私は別に気にしませんよ。それよりも、こんなに素敵なお店に入るのが初めてで、なんか緊張します。お庭がとても風流ですね」

「いいよね。俺のお気に入りのお店」

「そうなんですね。ふふっ」

陽茉莉はニコニコと微笑む。

「そんなに嬉しい?」

「はいっ。水瀬さんのお気に入りが知れて嬉しいです」

元気いっぱい答える陽茉莉は数秒してから「あっ!」と両頬を押さえた。

「ご、ごめんなさい。変なこと口走りました」

ついつい思ったことが口に出てしまうほど浮かれている自分が恥ずかしくなる。
引かれていたらどうしようとおずおずと亮平を見るが……。

「そう。俺も矢田さんのこと、いろいろ知りたいな」

軽く微笑まれて陽茉莉は「わああっ」と両手で顔を覆った。
そんな反応に亮平の方こそむず痒くなって顔を覆いたくなる。

「矢田さんって、なんか素直だよね」

「はあー。ごめんなさい。もういい歳なのに子供っぽいってよく言われます」

「くくっ、確かに子供っぽい」

「ですよね。……気をつけます」

「いや、そういう意味で言ったんじゃなくて……えっと……」

「……?」

「なんというか、可愛らしいよな、と思って……」

口もとを手で覆いながら亮平がボソリと呟く。
今度こそ陽茉莉は顔を真っ赤にして恥ずかしがった。

(心臓っ……心臓がもたないっ)

ドックンドックンと煩い胸の辺りをぎゅうっと握りしめる。何かを期待してしまうようなそんな感覚に陽茉莉は落ちつかない。

だが亮平の方こそ胸がザワザワしていた。
まさか自分がそんなことを口走るだなんて――。

やはり陽茉莉のペースに巻き込まれているのだろうか。
自分の気持ちが揺れ動いて落ちつかない。
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