君がくれた無垢な愛を僕は今日も抱きしめる
「……料理、冷めてしまうよ?」

「はっ、食べましょう! いただきます!」

優しい味わいの料理はどれもがスルスルと喉を通っていく。
陽茉莉は落ちつかない心を、食べることで必死にごまかしていた。

ずっと憧れていた『車椅子の君』が目の前にいる。一緒に食事をし、気に入ったと言われ……。

(そんな……まさか……。でもそれってすごくすごく嬉しい……)

亮平のことを憧れの目で見ていたことは確かだ。
けれどそれはファンだとか推しだとか、そんなミーハーな気持ちでいたはずなのに。

亮平と触れ合って、こうしてお喋りをして、陽茉莉の中にある亮平への気持ちがどんどん変化していく。それは自分でも自覚するほどに気持ちが大きくなる。

「私、調子に乗っちゃうかもしれません」

「調子に乗る?」

「水瀬さんの言葉、素直に受け取ってもいいですか?」

頬をピンクに染めながら尋ねる陽茉莉は大変にいじらしく、亮平は心臓を何かに掴まれた感覚に陥った。

なんだろう、この感覚は。
胸がきゅっとなってモヤモヤっとして、手を伸ばして掴みたくなるような、そんな感覚。忘れていた何かを思い出すような、そんな曖昧な気持ち。

「……俺の方こそ、調子に乗りそうだ」

言えば、

「じゃあ調子に乗ってください」

今度は陽茉莉が真面目な顔をして言うものだから、亮平は目を見開く。そして呼吸をすることを忘れ……。

「ぐっ、げっほっ」

先ほどの陽茉莉と同じ現象に陥り咳き込んだ。

「わああっ、大丈夫ですか?」

陽茉莉はおしぼりを手に慌てて席を立ち、亮平の元へ駆け寄る。そっと背中を撫でるその動きはとても優しくあたたかで、亮平の心にぽっと明かりが灯った。

「……ああ、もうっ」

亮平は前髪をくしゃりと掻きあげる。
陽茉莉とは半年前にほんの少し関わっただけ。今日だって訪ねてきてからまだ二、三時間しか経っていないというのに。

「……本当に調子に乗るよ?」

「はい」

「今度、デートしよう」

亮平からの誘いに陽茉莉は「うわあっ」と口元を押さえる。

「嬉しいです。どこに行きましょう?」

頬を染めながらも大喜びする陽茉莉を見て、亮平の心も浮き足だつ。

こんなに緊張したのは久しぶりだった。
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