君がくれた無垢な愛を僕は今日も抱きしめる
2.君の笑顔
レトワールの自動ドアが開くと、カラランと音が鳴る。

「いらっしゃいませー」

明るく元気な声が店内に響いた。
いつになくご機嫌な様子の陽茉莉に結子はソワソワとする。

客がはけた隙を狙って、雑務をこなす陽茉莉の元へ赴いた。

「ねえねえ、テンション高いよね? なんかいいことでもあった?」

「ふふふ、実はそうなんです」

「えっ、マジ? なになにー?」

「実は、車椅子の君とデートすることになりまして」

「デート!」

「そうなんです。だから楽しみで楽しみで。うふふふふ」

陽茉莉は満面の笑みで緩みっぱなしの頬を両手で押さえる。

まさか亮平を訪ねたことで食事に誘われデートの約束までするとは誰が予想しただろう。急展開に驚きつつも、日を追うごとに嬉しさと楽しみで仕方がなくなっている。

それに、亮平の印象がとてもよかった。

いや、元々気になる存在だったのは確かだ。けれど実際亮平と話してみてもっともっと彼を知りたくなったし、なにより楽しかった。あの時間がとても尊いものに思えたのだ。

「……なんか、好きになっちゃったかも」

ボソリと呟けば、結子は呆れた顔でため息を落とした。

「何を今さら。ずっと好きだったくせに」

「えっ?」

「なにそれ。無自覚ってやつ? 車椅子の君が通るたびにキャーキャー騒いでたじゃない」

「あ、あれはだって、ファンだったから……ですよぅ」

「だから好きだったんでしょう?」

「うぐぐ」

他人から言われると反抗したくなるのはなぜなんだろうか。
まあ、結局は結子の言うとおりなのだが。

「よかったじゃない。デート、どこ行くの?」

「フラワーパークです。今は梅と早咲きの桜が見頃らしいですよ」

「へぇ~。冷えないようにね。車椅子って冷えそうじゃない?」

「そうなんですか?」

「知らないけど、うちおばあちゃんが車椅子使ったことがあって、その時は足が寒いってすごく言ってたわ」

「そうなんですね。じゃあいろいろ調べていった方がいいかな……。あっ、いらっしゃいませー」

陽茉莉は入口に走って出て行く。
入口は自動ドアになっているため勝手に開くというのに、陽茉莉はベビーカーと幼児を連れた親子がスムーズに入ってこられるようにサポートする。その動きは実に自然でなめらかだ。

そんな姿を見て結子は「ま、陽茉莉ちゃんなら心配ないか」とふふっと笑うのだった。
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