君がくれた無垢な愛を僕は今日も抱きしめる
オフィス街でも一際高級感あふれる立派なビルの一室で、亮平は窓の外を眺めていた。
小さく手を振りながら「ではまた」と微笑んだ彼女を思い出しながら、どうやら自分は久しぶりに心が躍っていることを実感する。
「社長、どうかされましたか?」
秘書の長谷川に問いかけられて、亮平は「いや、なんでもない」と口元を押さえた。
思考を無理やり引き戻し、頭を仕事モードに切り替える。が――。
「今日はずいぶんと楽しそうですね。何かいいことでも?」
と聞かれて思わずぐっと顔を引き締めた。
長谷川は水瀬家お抱えの秘書兼運転手であり、亮平が幼少の頃から世話をしてくれている親代わりのようなものだ。
亮平の些細な感情も機敏に感じ取ってしまうほど、亮平のことをよく理解している。
「……今日は天気がよかったから車椅子で来たけど、いつもの道が工事してて」
「そうでしたか。それは気が回らずすみませんでした」
「ああ、いや、それはいいんだ。長谷川さんはこの通りにある黄色い看板の洋菓子店知ってる?」
「いえ、存じ上げませんねぇ」
「そうか。そこの店員さんが車椅子を押すのを手伝ってくれた」
淡々と告げた亮平だったが、長谷川の目には彼が喜んでいるように映る。それがとても嬉しい。
亮平の父は水瀬ホールディングスの会長を務めている。息子である亮平は、その傘下である水瀬データファイナンスの社長に就いていて、若き車椅子社長としてたびたびメディアに取り上げられるほど有名な存在だ。
だが亮平はいつもどこか冷めた節があり、長谷川はそのことをずっと心配していた。
というのも、亮平が車椅子生活になったのは大学生のときだ。不慮の事故により歩くのが困難になってしまった。それから少し塞ぎ込むようになったりと、亮平の心はうち寄せては戻る波のように不安定な時期が続いた。
こうして社長になったのはもちろん亮平の努力のたまものだが、小さい頃から亮平のことを見てきた長谷川には、亮平の心がすべて戻ったとは到底思えなかった。
けれど――。
「それでは今度その洋菓子店に行ってみましょうか?」
長谷川が提案すれば、亮平は間髪入れず「ああ、そうしようと思う」と僅かに微笑んだ。
そんな姿に長谷川は思わず目を細めた。
小さく手を振りながら「ではまた」と微笑んだ彼女を思い出しながら、どうやら自分は久しぶりに心が躍っていることを実感する。
「社長、どうかされましたか?」
秘書の長谷川に問いかけられて、亮平は「いや、なんでもない」と口元を押さえた。
思考を無理やり引き戻し、頭を仕事モードに切り替える。が――。
「今日はずいぶんと楽しそうですね。何かいいことでも?」
と聞かれて思わずぐっと顔を引き締めた。
長谷川は水瀬家お抱えの秘書兼運転手であり、亮平が幼少の頃から世話をしてくれている親代わりのようなものだ。
亮平の些細な感情も機敏に感じ取ってしまうほど、亮平のことをよく理解している。
「……今日は天気がよかったから車椅子で来たけど、いつもの道が工事してて」
「そうでしたか。それは気が回らずすみませんでした」
「ああ、いや、それはいいんだ。長谷川さんはこの通りにある黄色い看板の洋菓子店知ってる?」
「いえ、存じ上げませんねぇ」
「そうか。そこの店員さんが車椅子を押すのを手伝ってくれた」
淡々と告げた亮平だったが、長谷川の目には彼が喜んでいるように映る。それがとても嬉しい。
亮平の父は水瀬ホールディングスの会長を務めている。息子である亮平は、その傘下である水瀬データファイナンスの社長に就いていて、若き車椅子社長としてたびたびメディアに取り上げられるほど有名な存在だ。
だが亮平はいつもどこか冷めた節があり、長谷川はそのことをずっと心配していた。
というのも、亮平が車椅子生活になったのは大学生のときだ。不慮の事故により歩くのが困難になってしまった。それから少し塞ぎ込むようになったりと、亮平の心はうち寄せては戻る波のように不安定な時期が続いた。
こうして社長になったのはもちろん亮平の努力のたまものだが、小さい頃から亮平のことを見てきた長谷川には、亮平の心がすべて戻ったとは到底思えなかった。
けれど――。
「それでは今度その洋菓子店に行ってみましょうか?」
長谷川が提案すれば、亮平は間髪入れず「ああ、そうしようと思う」と僅かに微笑んだ。
そんな姿に長谷川は思わず目を細めた。