君がくれた無垢な愛を僕は今日も抱きしめる
温室を出ると夕方に差し掛かっていた。
昼間あんなに暖かかった風は、今はほんの少し肌寒く感じる。

クレープ以外にもキッチンカーでいろいろと買い食いをしたため、二人ともお腹はすいていなかった。

ポツリ、ポツリと照明が点灯し始める。
夕闇と照明に照らされる梅の木は昼間の雰囲気とはまた違った幻想的な風景を作り出していた。

「少し冷えてきたけど、陽茉莉は大丈夫?」

「大丈夫ですよ。私体温高いので」

ほら、と陽茉莉は手を差し出す。そっと触れば言うとおりとても温かかった。

「亮平さん、手冷たっ。あ、そうだ。ちょっと待ってくださいねー」

陽茉莉はリュックからごそごそと薄いブランケットを出し、亮平の膝に掛けた。

「ブランケット持ってきてたの?」

「まだまだ夜が冷えますから。車椅子だと足が冷えるって聞いたので」

「……俺のため?」

「えっ? ああ~えへへ。念のために」

明らかに亮平のためなのだが、素直に頷くのは何だか照れくさい。陽茉莉は曖昧にヘラっと笑った。

薄いブランケットは触り心地が良く程よく風を凌いでくれる。
亮平は温かいぬるま湯に浸かっている気分になった。

「ありがとう」

心を込めて言えば陽茉莉はとびきりの笑顔で応えてくれる。

なんて幸せなんだろうと思った。

陽茉莉は優しい。
こんなにも亮平の心をあたたかく包み込んでくれる。

彼女を離したくない。
けれどそれを口に出すことができない。

陽茉莉といると自分をさらけ出して何でも口からスルスルと出てきてしまうのに、どうしてもそれだけは言えなかった。

梅の木のライトアップを抜けるとイルミネーションが広がっていて花壇をキラキラと照らす。プロジェクションマッピングも使われていて目まぐるしく変わる景色に二人は目を奪われた。

あとは花火が上がるのを見て、そして帰る。
今日という日が刻一刻と終わりに近づいている。

次はいつ会える?
次も会ってもらえる?

言い出したいのになかなか言い出せない。
もどかしい想いが頭をぐるぐると支配する。

通路から少しそれた邪魔にならない場所に、陽茉莉は車椅子を止めた。そして亮平の横に並ぶ。

「ここからなら花火がよく見えるかな?」

風は微風に変わっていて花火には適しているけれどやはりちょっと冷える。

「陽茉莉、寒いでしょ?」

そっと手を触れば、先ほどよりも冷たくなっていた。逆に今度は亮平の方が温かい。

「ふふっ、亮平さんの手、あったかいです」

「陽茉莉のブランケットのおかげだよ」

そのまま二人は手を繋いだ。
どちらからともなく、自然と。
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