君がくれた無垢な愛を僕は今日も抱きしめる
「陽茉莉は何とも思わない? 俺が車椅子のこと」
陽茉莉はますます訳がわからないと行った様子で首を傾げた。
「亮平さんは亮平さんでしょう? 車椅子関係ありますか?」
「だって、……きっと陽茉莉に大変な思いをさせてしまう」
「大変かどうかは私が決めます。他には何かあります?」
「……何をするにしても人より時間がかかる」
「なるほど。でも待つのは嫌いじゃないです。あとは?」
「……融通が利かない」
「それって性格ですか? だったら私もそうかもです」
すべて論破されそうな勢いで返されて亮平は再び言葉に詰まった。
自分の気持ちをさらけ出すのは怖い。
だけど陽茉莉の気持ちにも真っ直ぐに応えたい。
亮平はぐっと拳を握った。
「ごめん、陽茉莉。自信がないんだ」
「自信?」
「俺はその……女性と上手くいった例しがないから……俺のことをいろいろ知られて、陽茉莉に嫌われるのが怖い。……怖いんだよ」
声が震えてしまう。
恋愛に対してこんなに臆病になる自分がいたとは思わなかった。けれど裏を返せばそれだけ陽茉莉のことを好きだということで。
自覚してしまった気持ちは元に戻らない。
「泣かないで、亮平さん」
言われて、亮平は目元に触れる。
いつの間に涙が出ていたのだろう。
自覚症状のない涙を流したことは初めてだ。
「そんなの、私だって怖いよ。そうやって亮平さんが一人で抱え込むことが怖い。ねえ、亮平さんの気持ち、聞かせて。私のこと、好き? 嫌い?」
「……そんなの……好きに決まってる」
「ふふっ、嬉しい」
満面の笑みの陽茉莉はまるで向日葵のように明るく元気で、亮平の心にひたひたと染み込んでくる。
「亮平さん、好き」
ふわっと甘い香りがした。
陽茉莉が亮平に抱きついたのだ。
「陽茉莉……?」
そろりと陽茉莉の背に手を回す。
あたたかくて柔らかなぬくもりが手のひらから伝わってきて亮平はまた目頭が熱くなった。
彼女に身を委ねてもいいだろうか。
愛おしい気持ちがぐんぐんとわき上がる。
「おいで、陽茉莉」
「わあっ」
亮平に腰を引かれ陽茉莉は亮平の膝の上にポスンと尻餅をついた。
「ちょ、あ、お、重いからっ」
「重くないよ」
ぎゅうっと抱きしめられ急に密着度が増した。
陽茉莉はあわわと慌てるが、亮平の肩が小刻みに震えていることに気づいて平静を取り戻す。
「亮平さん。自信……ないの?」
亮平は小さくコクンと頷く。
陽茉莉を手に入れたい。
もう自分の腕の中にいるというのに、それでも亮平は怖くてたまらない。
よみがえりそうになる記憶を必死に頭の隅に留める。