君がくれた無垢な愛を僕は今日も抱きしめる
震える亮平の背を陽茉莉はそっと擦った。
彼は何を怖がっているのだろう。亮平の過去に興味がないといえば嘘になるけど、今ここで詮索する気持ちはわかなかった。それよりも、少しでも不安を取り除いてあげたいと思う。

「じゃあ他には何が気になってる? トイレで粗相しちゃうとかそういうこと?」

亮平はぐっと息を飲んだ。
ドキンと背中に冷や汗が流れる。

陽茉莉に知られて嫌なことはたくさんあるはずだった。
けれど一方で、陽茉莉なら笑ってやり過ごしてくれるかも知れないという淡い期待もしてしまう。

矛盾する気持ちに困惑していると、陽茉莉は落ち着いた声で口を開いた。

「私、一応調べたんです。車椅子の人って何に困るのかなーって。私が想像すること以上に大変なことがあるのかもって。確かに大変そうなことはたくさんあったけど、それに対して私は別に何も思わなかったですよ。だって完璧な人間はいないんだもの。違ってて当たり前でしょう? 車椅子だからって私は特別な目で見ないし、可哀想だとも思わない。できないことはお手伝いするけど、それは私も同じ。だって私が開けられなかったペットボトルのキャップ、亮平さんが開けてくれたでしょう?」

ね、と陽茉莉は微笑む。

亮平は陽茉莉の言葉をひとつひとつ噛みしめた。
車椅子だからと特別な目で見ていたのは自分自身なのかもしれない。陽茉莉にとって亮平の障害は障害ではないのだろう。

急に心が軽くなった気がした。

「陽茉莉は……優しいね」

「だって亮平さんが好きだから、自然と優しくなれるんだと思う。……好きなの、亮平さんが」

陽茉莉は自分の服の袖で亮平の涙を拭った。
亮平は心地よさを感じて陽茉莉に身を委ねる。

「……陽茉莉、キスしていい?」

「うん、しよう」

亮平は陽茉莉のサラサラな髪に手を差し込み自分の方へ引き寄せた。

甘くて柔らかい唇の感触は、それだけでは物足りなくて。
もっともっと感じていたいとさらに深く口づける。

最後の花火がドーンと打ち上がり、二人を祝福するかのように夜空に大きな花を咲かせた。
それはまるで向日葵のように明るく希望に満ちていた。
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