君がくれた無垢な愛を僕は今日も抱きしめる
フラワーパークへは、陽茉莉は電車で、亮平は長谷川の運転する車で来ていた。

帰りは二人で電車に乗った。
亮平は一人で電車に乗ることは少ない。大抵は長谷川が過保護に送り迎えをしてくれる。だから電車を使うときは少し緊張してしまうのだけれど。

陽茉莉が一緒だと思うと何も怖くなかった。

陽茉莉は先頭車両の車椅子スペースに亮平を移動させる。車椅子ブレーキをしっかりとかけて固定し、自分は横に立った。

車内は比較的空いていて二人のまわりに人はいない。
ガタンガタンと電車の揺れが心地よい。

「陽茉莉、俺は足首が不自由で、だからトイレの粗相は少ない方だとは思うんだけど、やっぱりそういうことはあるわけで……」

「別に無理して言わなくていいのに」

「いや、やっぱり知っててもらいたいというか」

亮平は照れくさい気持ちになるが、陽茉莉は亮平からそうやって話してくれることに喜びを感じずにはいられない。無理して言わなくていいなんて嘘だ。もっともっと亮平を知りたいと思う。

「私が最後におねしょをしたの何歳だと思う?」

「ん……十歳とか?」

「正解は二十一歳でした。……引いちゃった?」

「いや、そんなことで引かないよ」

「そうでしょ。私も、そんなことで引かないんだよ」

陽茉莉はニコッと笑う。
その笑顔を見るだけでまた一つ亮平の心のモヤが晴れて軽くなる気がした。

「ちなみに理由聞いてもいい?」

「理由? 前の日にベロベロに酔っぱらって、次の日の昼まで大爆睡しちゃったの。でね、夢でトイレ探しててね、あったーって思ったら目が覚めて……ちょっと漏れてた。あはは」

屈託なく笑う陽茉莉に亮平もくすりと笑う。
嫌な気持ちや恥ずかしい気持ちはまったくない。

「陽茉莉って本当、明るくていいね」

「他にもいっぱいやらかしエピソード持ってるよ。レトワールで小麦粉一袋ぶちまけたとか。……ていうか、いつの間にかタメ口でしゃべってた」

「いいよ。その方がいい。ありがとう、陽茉莉」

亮平は陽茉莉の右手を握る。
陽茉莉も自然とそれに応える。
目的の駅まで手を繋いだままお喋りに花を咲かせた。

そんな何気ないことが幸せでたまらなかった。
この時間が永遠のものになればいいのにと願う。

陽茉莉が亮平の行く手を明るく照らす。
きっと君と歩く道は希望に満ちているのだろう。
< 30 / 103 >

この作品をシェア

pagetop