君がくれた無垢な愛を僕は今日も抱きしめる
陽茉莉の両親と向かい合う形で席に着くと、亮平が先に口を開く。

「改めまして、水瀬亮平と申します。陽茉莉さんとお付き合いをさせていただいております。この度はご挨拶が遅れましたことお詫び申し上げます」

亮平があまりにも丁寧でスマートな挨拶をするので、両親は思わず背筋が伸びた。

「……なんだか結婚の挨拶みたいだなぁ」

緊張した父が変なことを口走るので陽茉莉は「お父さん!」と慌てて咎めたのだが。

「そうですね。結婚を含めて、陽茉莉さんとは将来のことを考えていきたいと思っています」

「けっ、結婚!」

思わぬ言葉に陽茉莉はボボボと頬を赤らめる。

亮平が結婚を考えているとは思わなかった。確かに先日陽茉莉から「ずっと一緒にいたいね」と伝えたけれど、そこに深い意味はなく……むしろなぜ自分はその事を考えなかったのだろうと慌ててしまう。

亮平の真剣さが伝わるからこそ、自分の浅はかさを反省するとともに、改めてこの先もずっと亮平と一緒にいたいと深く思った。

「亮平くん、仕事は何を? 車椅子だとできる仕事が限られたりしないかい?」

「水瀬データファイナンスに勤めております。確かに行動は制限されることもありますが、特に不自由なく働いています」

「亮平さんはね、社長さんなんだよ。すごいよね」

「しゃちょう……」

父は言葉をのむ。

どうりできちんとした服装にしっかりとした挨拶、それに高そうな料亭を選ぶわけだと妙に納得してしまう。自分よりもずいぶん若いだろうにすごいなと素直に感心してしまった父だったが、逆に不安にも駆られた。自分は一般企業の平社員だからだ。

「えっと亮平くん、申し訳ないけどうちとは身分というか家柄というか、その、今後のことを考えると大丈夫だろうかと思うんだけど」

「たまたま僕が社長だというだけで、家柄などは関係ないです」

と言われても、やはりいろいろあるのではと勘ぐるのだが、娘の陽茉莉を見ていると幸せそうに笑っているため追及するのが忍びなくなって父はうむむと頭を悩ませた。
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