君がくれた無垢な愛を僕は今日も抱きしめる
6.君がため
両親のことは別として、陽茉莉と亮平の交際は順調そのものだった。
いつも通り都合が合えば一緒に帰ったりご飯を食べたり、休日が会う日はデートだってする。

陽茉莉はあの日から母との関係は何も進展しないままだったけれど、特段文句を言われることもなかったし交際について口を出されることはなかった。それに陽茉莉はきちんと門限も守っていたため、すっかり油断していたのだ。

それは久しぶりの家族団らんでの夕食時のことだった。

「陽茉莉はまだ亮平くんとお付き合いしているの?」

「え? うん、してるよ?」

正直に答えたのだが。
母の顔は険しくなり、陽茉莉も何事かと身構えた。

「ねえ陽茉莉、頼むからもう一度よく考えてみてほしいのよ」

「どうして?」

「今はよくたって絶対に将来苦労することになるのよ。お母さんには陽茉莉が幸せになる未来が見えないの」

「なにそれ――」

陽茉莉は絶句して箸を置いた。
母の口調は決して怒ってはいなかったが、陽茉莉の方がムカムカと嫌な感情が腹の奥の方に渦巻く。

亮平のことを悪く言われた――。

直接的に言われたわけではない。けれど言葉は選んでいるかもしれないが間接的にそういうことなのだろうと陽茉莉は理解した。

母はどうしても認めたくないのだ。
陽茉莉と亮平の関係を。

「苦労なんてしてないし、私の幸せは私が決めるの。お母さんが決めることじゃないよ」

「お母さんはあなたのことを想って――」

「想ってないよ!」

ダンッとテーブルが揺れる。
陽茉莉が拳を打ち付けたのだ。

今まで我慢してきたことも妥協してきたことも受け入れてきたことも、すべてがどうにでもよくなった気がした。

「陽茉莉……」

「私はずっと我慢してきたんだからね。もう大人なのに門限もあるし、お泊まりもできない。嫌だなって思ってたけど、それはお母さんを悲しませたくなかったから……」

「あなたはお母さんの子どもでしょう?」

「子どもだけど、もう大人なの!」

二人が徐々にヒートアップしていく様子を驚いてポカンと見ていた父だったが、はっと正気に戻り慌てて「ちょっと待って二人とも!」と止めにかかったのだが――。

「私、もう出ていく」

夕食も残したまま陽茉莉は立ち上がる。
自分からこんなに低く冷たい声が出るとは思わなかった。そして両親も、こんな反抗的な陽茉莉を見たのは初めてのような気がした。

「ちょっと、どこへ行くの」

「今日は亮平さんのお家に泊まる。お母さんが泣いたって、今日は帰らないから」

「待ちなさい、陽茉莉!」

振り切るように陽茉莉は出て行く。
冷静になれないくらい、ムカムカしていた。
こんな風に親に反抗したのは初めてだ。

でもそれくらいにどうしようもなく怒りが込み上げて、悔しくて悲しくて感情がぐちゃぐちゃになった。
陽茉莉の中で何かが弾けたような気がした。
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