君がくれた無垢な愛を僕は今日も抱きしめる
「結婚かぁ」
感慨深く陽茉莉がつぶやく。左手には結婚指輪。かざしてみたり角度を変えて眺めてみたり、ダイヤモンドが虹色に煌めくたびに陽茉莉の胸はきゅんと疼く。
「仕事柄ずっとはつけられないんだけど……」
「うん、それはわかってる。わかってて購入した。俺の気持ちを陽茉莉に伝えたいのと、きちんと婚約しておきたいと思ったんだ」
「嬉しすぎてどうしたらいいかわからないよ。私は何をお返ししたらいいんだろう?」
「陽茉莉は俺のお姫様だから、何もしなくていいんだよ」
「ふわぁ、イケメン王子様」
微笑む亮平は本当に王子様のようで、陽茉莉はドキドキと胸を躍らせた。
つい先刻まで母と険悪になったドス黒い気持ちが嘘のように、しゅわしゅわと心が浄化されていくのを感じている。
「陽茉莉は夕飯食べた?」
「ご飯食べてる途中でお母さんとケンカしちゃったから、あんまり食べてないの」
「俺もまだだから、一緒に何か食べよう」
「あっ、そうだよね。亮平さんお仕事で大変だったのに押しかけてごめんね」
「いいんだよ。俺は陽茉莉と会えて嬉しいし、陽茉莉が元気じゃないと心配でたまらないから」
「うん、ありがとう」
亮平は冷蔵庫をガサゴソと漁る。冷蔵庫も、車椅子に合わせて低いものだった。そういうものがあるのだと、陽茉莉は初めて知る。知らないことはまだまだ多い。けれど少しずつ、知っていけたらいいと思う。
「何でもいい?」
「作ってくれるの?」
「大したものはできないけど」
そう言いながらも、亮平は手際よく準備を進めていく。その行動からは普段からやっているのだろうということが推測された。
「私も何かお手伝いするよ」
「じゃあ――」
陽茉莉は普段家で料理をしない。やっても母の手伝い程度だ。お菓子作りは得意だが食事の方となるといつも母が作ってくれている。
亮平の手際の良さを見て急に不安に駆られた。やはりもっと家事全般について練習しなくてはいけない。このままでは亮平を助けるどころか足手まといになってしまう。
「陽茉莉、どうした?」
手伝いに来たもののどんどん顔が青ざめていく陽茉莉に、亮平は不思議そうに尋ねる。
「亮平さん……私、料理とか……家事全般あんまりできないかも。これから一生懸命練習するね」
「うん?」
「ずっと実家暮らしで、ずっとお母さんに頼ってきちゃって。亮平さんの手際の良さを見て焦るというかなんというか……」
「お菓子作りは得意なのに?」
「それとこれは違うんだよぅ」
必死な陽茉莉に対して亮平はケロリとした顔で、むしろ安心させるかのように陽茉莉の頭をぽんぽんと撫でる。
「そんなこと気にしなくて良いのに。陽茉莉が出来ないことは俺がやる。俺が出来ないことは陽茉莉がやる。それでいいだろ?」
「いい、かな?」
「だって陽茉莉が言ったんだよ。そうやって俺に言ってくれた。覚えてない?」
ほら、フラワーパークのときに……と亮平は思い出す。
亮平がいろいろなことに自信がないと打ち明けたとき、陽茉莉は完璧な人間はいないといった。出来ないことは手伝うし、陽茉莉が開けられなかったペットボトルのキャップを亮平が開けてくれたのだと、そうやってお互いに補い合う気持ちを教えてくれた。なぜそれができるのかと言えば、好きだからできるのだと……。
だったら亮平も同じ気持ちだ。
陽茉莉のことが好きだから、陽茉莉に出来ないことがあったって何も思わない。それが陽茉莉だからだ。
「そっか……。そうだったね、うん、そうだった」
ふふっと、陽茉莉は頷く。
自分の言葉がまさかそんな風に返ってくるとは思わなかった。亮平も同じ気持ちでいてくれることに感激で胸がいっぱいになった。
感慨深く陽茉莉がつぶやく。左手には結婚指輪。かざしてみたり角度を変えて眺めてみたり、ダイヤモンドが虹色に煌めくたびに陽茉莉の胸はきゅんと疼く。
「仕事柄ずっとはつけられないんだけど……」
「うん、それはわかってる。わかってて購入した。俺の気持ちを陽茉莉に伝えたいのと、きちんと婚約しておきたいと思ったんだ」
「嬉しすぎてどうしたらいいかわからないよ。私は何をお返ししたらいいんだろう?」
「陽茉莉は俺のお姫様だから、何もしなくていいんだよ」
「ふわぁ、イケメン王子様」
微笑む亮平は本当に王子様のようで、陽茉莉はドキドキと胸を躍らせた。
つい先刻まで母と険悪になったドス黒い気持ちが嘘のように、しゅわしゅわと心が浄化されていくのを感じている。
「陽茉莉は夕飯食べた?」
「ご飯食べてる途中でお母さんとケンカしちゃったから、あんまり食べてないの」
「俺もまだだから、一緒に何か食べよう」
「あっ、そうだよね。亮平さんお仕事で大変だったのに押しかけてごめんね」
「いいんだよ。俺は陽茉莉と会えて嬉しいし、陽茉莉が元気じゃないと心配でたまらないから」
「うん、ありがとう」
亮平は冷蔵庫をガサゴソと漁る。冷蔵庫も、車椅子に合わせて低いものだった。そういうものがあるのだと、陽茉莉は初めて知る。知らないことはまだまだ多い。けれど少しずつ、知っていけたらいいと思う。
「何でもいい?」
「作ってくれるの?」
「大したものはできないけど」
そう言いながらも、亮平は手際よく準備を進めていく。その行動からは普段からやっているのだろうということが推測された。
「私も何かお手伝いするよ」
「じゃあ――」
陽茉莉は普段家で料理をしない。やっても母の手伝い程度だ。お菓子作りは得意だが食事の方となるといつも母が作ってくれている。
亮平の手際の良さを見て急に不安に駆られた。やはりもっと家事全般について練習しなくてはいけない。このままでは亮平を助けるどころか足手まといになってしまう。
「陽茉莉、どうした?」
手伝いに来たもののどんどん顔が青ざめていく陽茉莉に、亮平は不思議そうに尋ねる。
「亮平さん……私、料理とか……家事全般あんまりできないかも。これから一生懸命練習するね」
「うん?」
「ずっと実家暮らしで、ずっとお母さんに頼ってきちゃって。亮平さんの手際の良さを見て焦るというかなんというか……」
「お菓子作りは得意なのに?」
「それとこれは違うんだよぅ」
必死な陽茉莉に対して亮平はケロリとした顔で、むしろ安心させるかのように陽茉莉の頭をぽんぽんと撫でる。
「そんなこと気にしなくて良いのに。陽茉莉が出来ないことは俺がやる。俺が出来ないことは陽茉莉がやる。それでいいだろ?」
「いい、かな?」
「だって陽茉莉が言ったんだよ。そうやって俺に言ってくれた。覚えてない?」
ほら、フラワーパークのときに……と亮平は思い出す。
亮平がいろいろなことに自信がないと打ち明けたとき、陽茉莉は完璧な人間はいないといった。出来ないことは手伝うし、陽茉莉が開けられなかったペットボトルのキャップを亮平が開けてくれたのだと、そうやってお互いに補い合う気持ちを教えてくれた。なぜそれができるのかと言えば、好きだからできるのだと……。
だったら亮平も同じ気持ちだ。
陽茉莉のことが好きだから、陽茉莉に出来ないことがあったって何も思わない。それが陽茉莉だからだ。
「そっか……。そうだったね、うん、そうだった」
ふふっと、陽茉莉は頷く。
自分の言葉がまさかそんな風に返ってくるとは思わなかった。亮平も同じ気持ちでいてくれることに感激で胸がいっぱいになった。