君がくれた無垢な愛を僕は今日も抱きしめる
「亮平さんは憧れの結婚式ってある?」

食事を終えビーズクッションで寛ぐ陽茉莉は、指輪を照明にかざしながら亮平に問うた。

「あまり考えたことはないけど、陽茉莉はあるの?」

「私はね、真っ白なウェディングドレスを着てお父さんとバージンロードを歩くの。先には亮平さんが待っててくれて、腕を組んで歩くんだぁ」

「そうか、それだと車椅子じゃかっこ悪いな」

「あっ、ごめん、そういう意味で言ったんじゃないよ。車椅子でも全然いいよ」

「わかってるよ。でもやっぱり立って待ってたほうがかっこいいよな」

そう甘く微笑むものだから、陽茉莉は想像してしまう。亮平がタキシードを着て立っている姿を。

「ふわぁぁっ、かっこいいっ」

脳内の亮平があまりにもかっこよくて陽茉莉は両頬をおさえながらうっとりとした。

もちろん車椅子の亮平もかっこいい。けれど時々、車椅子から降りるときや場所を移動するとき、そしてベッドで一緒に寝転がるとき、亮平の身長は陽茉莉よりも高くなる。少し見上げる感じになるあの感覚はときめき以外の何物でもない。

「また何か想像してるな」

「だって亮平さんがかっこよすぎるんだもん!」

まっすぐにそう訴えられると、なんだか胸のあたりがくすぐったい。そんなにも喜んでくれるなら、陽茉莉のために立ち上がりたいとすら思ってしまう。

「リハビリ、しようかな?」

「うん?」

「実はさ、事故をした後、歩くリハビリを諦めたんだ。あのとき頑張ってたらもしかしたら少しだけ歩くことができるようになってた可能性もあってね」

「そうなの?」

「うん。ただ事故したときは自暴自棄でさ、いろいろあって荒れてたんだよね。車椅子を使うだけでも大変だったし、歩くなんて可能性の低いことをやっても仕方ないって思ってて。結局そっちに向けなきゃいけない努力を全部仕事の方にベクトルを合わせてしまったんだけど」

「でもそれで社長さんになったんでしょ。すごいよ。努力家だね」

「結婚式に向けて今からでもリハビリしてみようかな? 今さらかな?」

「ふふっ、亮平さんの歩く姿想像するとかっこよすぎて悶えちゃうよ。でも無理しないでね。今の亮平さんも十分かっこいいよ。大好き」

「俺も陽茉莉が大好きだよ」

亮平と過ごしていると穏やかな気持ちになる。
モヤモヤしていた気持ちもムカムカしていた気持ちも、いつの間にかどこかへ飛んで行ってしまったかのよう。

このままずっと一緒にいられたらいいのに……。
< 66 / 103 >

この作品をシェア

pagetop