君がくれた無垢な愛を僕は今日も抱きしめる
チラリと時刻を確認すれば、そろそろ午後十一時。陽茉莉の門限の時間だ。携帯電話に母からの着信はない。

「帰る? 気になってるんだろ?」

「……うん。そうなんだけどね、でも今帰ったら冷静になれない気がするから、今日はとことん反抗するの。だから、亮平さんには迷惑かけちゃうけど、泊まってもいい?」

「いいよ。迷惑だなんて思わないよ。俺は陽茉莉と一緒にいられて嬉しい」

「明日の朝、帰るね。亮平さんお仕事でしょう?」

「ん、じゃあ朝送ってくよ」

「うん、ありがとう」

亮平に迷惑をかけているのは重々承知だ。だけど今日だけは亮平の厚意に甘えたいとも思う。

「亮平さん、お風呂……一緒に入る?」

一呼吸置いて、亮平は言葉に詰まる。
ちょっといろいろ想像してしまったからで――。

それは必ずしも艶めかしいことだけではなくて、体を支えながらあれやこれやするのを陽茉莉に見られるのを躊躇ってしまったから。今さらそんなこと陽茉莉は気にしないのではとも思うけれど、何となく、気が引けるというか何というか……。

そういうところに、亮平はまだ自信が持てない。
陽茉莉のことは信じているけれど、この拭い去れない気持ちは亮平の性格とも言えようか。

「んっ、いやいや、陽茉莉が先に入っておいでよ」

「なんで? 洗いっこしよ?」

ダメ? と可愛く首を傾げられると亮平は胸の奥が熱くなる。そんな風に言われると一歩踏み出してみたくもなる。陽茉莉はいとも簡単にそんな気持ちにさせてくれる。

亮平は両手で顔を覆い「陽茉莉が可愛すぎてやばい」と呟いた。

可愛いなんて言われて嬉しくないわけがない。陽茉莉は亮平の車椅子のハンドルに手をかけ「さ、お風呂入ろー」と問答無用に車椅子を押していった。

嬉しいような恥ずかしいような、くすぐったい気持ち。

夜は否応なく更けていく。

初めてのお泊りが母とのけんかが理由だったけれど、優しい亮平と一緒に夜を過ごすことができて陽茉莉はとても感慨深い気持ちになった。
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