君がくれた無垢な愛を僕は今日も抱きしめる
陽茉莉の症状は外傷性くも膜下出血だった。
あのとき突き飛ばした男の子はかすり傷ですんだらしい。世間では美談にされている。陽茉莉が身を挺して守ったのだと。

けれどそんな綺麗ごとなど亮平はどうでもよかった。そんなときまで良い子な陽茉莉になるなと叱りたい。

どうして誰かをかばったんだ。
どうして陽茉莉が被害にあわなければいけないんだ。

どす黒い気持ちがモヤモヤと心をむしばむ。

陽茉莉に会いたい。
陽茉莉の声が聞きたい。
陽茉莉の笑顔が見たい。

亮平は毎日祈った。祈って祈って祈って、会いたくてたまらなくて、だが家族しか面会は許されない。その家族ですらも、一日に数分しか面会できない。

自分でさえもこんなに胸がえぐれそうな思いなのに、陽茉莉の両親の心労はいかほどだろうか。考えるだけで耐えられなく吐きそうになる。

亮平も事故で死の淵をさまよった。自分は車椅子になったけれど生きている。だからきっと陽茉莉も大丈夫、目を覚ましてくれる。

そうやって、何度もくじけそうになる心を必死に持ち上げる。

亮平だけではない。
誰もが陽茉莉が目を覚ますことを祈っていた。

母は毎日仏壇に祈った。陽茉莉を連れて行かないでと毎日泣いた。泣きはらした目で病院にも通った。両親はお互いを支え合いながら陽茉莉の回復を願った。

そうして二週間ほど過ぎたころ、亮平の元に連絡が入った。陽茉莉の父からだ。

『亮平くん、陽茉莉が目を覚ました』

「本当ですか!」

ああ、よかったと安堵のため息が漏れる。
だが――。

『すまないけど、病院に来てもらってもいいだろうか』

ずいぶんと沈んだ声に再び緊張が走る。

「なにか……あったんですか?」

『それを確かめたくて……。ああ、でもちょっと……心しておいてほしい』

それ以上、陽茉莉の父は何も言わなかった。亮平も深く追及することが出来ない。陽茉莉の父の声は動揺しているような震えているような、そんな雰囲気が漂っていたからだ。

陽茉莉が目を覚ました喜び、陽茉莉に会える喜びで胸がいっぱいになる。けれどその一方で、嫌な予感もひしひしと感じる。

なんだろうか、この落ちつかない感じは。
亮平はきゅっと口を結んだ。
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