君がくれた無垢な愛を僕は今日も抱きしめる
クリスマスは洋菓子店にとって戦場だ。

短時間勤務をしていた陽茉莉もこの日ばかりはフルタイムで働くこととなった。ちょうど仕事にも慣れてきたし働く時間を増やそうと考えていたところだったので、ちょうどいい。

クリスマスケーキを手に楽しそうに帰って行く客たちを見て、陽茉莉も精一杯の笑顔で応えた。

「さすが陽茉莉ちゃんだわ。笑顔が絶えない」

ボソッと結子が呟く。客の切れ間がほとんどなく休憩もままならないというのに、陽茉莉はずっと楽しそうに働いている。そんな様子を見ると自分も頑張らなくてはという気持ちになる。結子も他の従業員も、陽茉莉の勤勉な姿に励まされていた。

「お疲れ様~」

ようやく客足がはけた閉店間際。
結子が陽茉莉の肩を叩いた。

「大丈夫? 疲れてない?」

「はい、大丈夫です!」

十二月にレトワールに復帰してから短時間勤務が続いていた陽茉莉だったが、さすがにクリスマスは人手がいるということで朝から晩までみっちり働いたのだ。

「もう私はクタクタよ~」

ぐるぐると肩を回しながら結子が大きく息を吐いた。確かに働きづめで立ち仕事だったため若干両足に疲労感がある。

「でもクリスマスってすごいですね。皆さんお家でクリスマスパーティーするのかなぁ? 羨ましい」

「本当よね。あー、疲れたぁ。私もケーキ食べたい」

空になったショーケースの掃除をしながら結子がぶつくさと文句を言っていると、遥人がひょいと顔を出した。

「ケーキ、食べます? 今日ラストまで働いた人には店長の奢りでケーキ食べられますよ」

「えっ、嘘! やった! 陽茉莉ちゃんも食べていきましょうよ」

「はいっ! じゃあ超特急で仕事終わらせちゃいますね」

販売部員が残作業をこなしている間に、厨房ではケーキが用意される。店長からのささやかなクリスマスプレゼントだ。

誰が準備したのか、クリスマスのBGMまで緩やかに流れてクリスマスの雰囲気を高めていった。
< 83 / 103 >

この作品をシェア

pagetop