君がくれた無垢な愛を僕は今日も抱きしめる
「無理に思い出す必要ないですよ!……いたっ!」

ヒートアップしそうな遥人に結子は軽くチョップをかました。遥人は思わず額を押さえ、結子を恨めしそうに見やる。

「落ち着いて。それは長峰が決めることじゃないでしょう?」

強い口調で諫められ、遥人は口をつぐむ。
結子の言うことはもっともだ。二人のことは遥人には関係ないのだから。けれど、何もしない亮平に腹が立つ。

「もしかしたら水瀬さんにも何か考えがあるのかもしれないわ。そこに私たちがどうこう言うのは間違ってると思う。ねえ陽茉莉ちゃん、今度水瀬さんの会社を訪ねてみたら?」

「えっ、会社? それってすごく迷惑なんじゃ……」

「大丈夫よ。前の陽茉莉ちゃんも、レトワールのお菓子持って突撃してたもの」

「ほんとですか?」

陽茉莉は目をぱちくりさせた。
まさか以前の自分が亮平の会社に突撃しようなどと思いもよらない。けれどそれは勇気にもなる。自分はそれくらいの積極性があったのだと。

「知りたいんだったら行くしかないわよ。そんな勇気ないなら過去のことはすっぱり諦めて、これからの人生を考えなさい。楽しく生きる方が良いと思うわ。ま、長峰も悪いやつじゃないし、もしものためにキープしておいてもいいかもね?」

結子が茶目っ気たっぷりに笑い、遥人は飲んでいたシャンメリーを吹きそうになった。

「ちょ、俺の扱いひどくないっすか?」

「百歩譲ってあんたにもチャンスをあげたんだから感謝してもらいたいくらいね」

「いやいや、どこが?」

結子は楽しそうに遥人を揶揄い、遥人はやってられないとばかりに呆れたため息を落とす。そんな二人のやり取りに、陽茉莉はあたたかい気持ちになった。きっと二人とも陽茉莉が変に悩まないように気を遣ってくれているのだ。

だったら自分もやるしかない。
記憶を取り戻したいと願っているのは他でもない陽茉莉なのだから。

「結子さん、遥人くん、ありがとうございます。私、頑張ってみます!」

ニコッと笑う陽茉莉は、以前の陽茉莉と何ら変わりなく。
明るく朗らかでまるで向日葵が咲いたかのよう。

結子はくすっと微笑んでから、遥人に意地悪そうな笑みを向けた。

「長峰、もうフラれた。ウケる」

「はっ? とんだセクハラですよ」

「ごめんね、遥人くん。えっと、私……」

「あーはいはい、いいんすよ。俺は矢田さんが笑っててくれればそれでいいタイプなんで。これからも同僚として近くで拝ませてもらいます」

遥人はそれだけ言うと、残りのケーキをガブガブと食べた。陽茉莉も倒れてしまったケーキを美味しそうに食べる。パティシエの遥人が作ったケーキは、上品な甘さでとても優しい味がした。
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