君がくれた無垢な愛を僕は今日も抱きしめる
10.巡る季節
柔らかな風が吹く春の兆しが見え始めた冬の終わり。

「亮平さーん」

陽茉莉は亮平の姿を見つけると嬉しそうに大きく手を振った。
そんな少し子どもっぽい無邪気な姿も可愛いなと思いながら、亮平もにこやかに手を振り返す。

「早いね」

「楽しみすぎて早起きしちゃったの。ふふっ」

待ち合わせのフラワーパークの入口で、陽茉莉は嬉しそうに笑う。

あれから、二人は何度かデートを重ねていた。
デートと言いつつも、亮平は陽茉莉にもう一度好きになってもらうために、陽茉莉は亮平のことを知るために会うにすぎないのだが。恋人に戻ったわけではないことは二人とも納得しての付き合いだ。

「この時季は梅に混じって桜も咲くことがあるんだって」

「へー、それは楽しみだな」

「キッチンカーもたくさんあるみたいだよ」

「くくっ、花より団子」

亮平は何かを思い出す。けれどすぐにその思い出は頭の隅に追いやった。陽茉莉とフラワーパークは二回目だ。だけどそんなことはどうでもいいのだ。今目の前にいる陽茉莉と、今この時を楽しみたいのだから。

「うわぁ、結構人が多いね」

「みんな寒いのに花が好きだな」

「そりゃ好きだよ。だって花の種類で季節を感じられるし自然いっぱいで気持ちいいよね? あと、イルミネーションも綺麗だし美味しいご飯もあるし最高だよ」

「ははっ、間違いない」

まあ、陽茉莉と一緒ならどこでも最高だけど……とは心の中で呟いておく。

「ねえ陽茉莉。手を……繋がないか?」

「え?」

「はぐれないように」

「いいけど、できるの?」

車椅子を片手で操作しながら手を繋ぐなどと、そんなことができるのだろうか。

陽茉莉の心配をよそに、亮平は陽茉莉の手をきゅっと握った。

陽茉莉と手を繋ぐのはいつぶりだろうか。感動の波が押し寄せると共に、恋人ではないのだから拒否られたらどうしようなどと後から不安に駆られたのだが――。

陽茉莉は嫌がるどころかほんのりと頬をピンクに染めた。
まるで梅か桜の花びらみたいに可憐に。

(ああ、好きだ)

亮平は改めて自分の気持ちを確信する。
かつて恋人だったから陽茉莉にまた好きになってもらいたいんじゃない。今の陽茉莉のことも好きだから一緒にいたいのだと、心が叫んでいる。

「今日は夜までいいんだったよね? イルミネーションまで見ていかないか?」

「うん、見たい。楽しみ」

ふふっと嬉しそうに笑う陽茉莉。

初めて陽茉莉とフラワーパークに来たときは、あれこれと陽茉莉に世話を焼かれた気がする。だったら今日は亮平がとことん世話を焼こうじゃないか。

と、意気込んだのだが――。

「亮平さん、見て見て~! これ梅かな? 桜かな?」

「ん、どっちだろう?」

「あっ! たこ焼き美味しそう。でもなー、メロンパンもすてがたいし……うむむ」

「両方買ってシェアする?」

「わっ、それいい! 買ってくるね」

「あっ、ちょっ、ひま――」

結局陽茉莉の行動力が勝り、亮平が陽茉莉の世話を焼くことはほとんどなかった。
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