私のお兄ちゃん season1
翌朝、伊織は朝食を食べずに家を出ようとした。


慎也は伊織を呼び止めた。


「伊織。ちょっと。」


「なんだよ。」


「一年生の時は、悪かった。山飼先生の言うことを聞いて、父さん、お前のこと、信じてやれなかった。
 
父さんが伊織を放置していることが寂しかったから、反抗しているだけだと思っていたんだ。
本当にすまない。」



伊織は何も言葉が出なかった。



「朝ごはんくらいは食べていきなさい。
お母さんがつくってくれたんだ。」


「お母さん、ごめん。明日から、ちゃんと食べるよ。」


「えぇ。いってらっしゃい。伊織くん。」



伊織は涙を堪えていたように思えた。
玲蘭は、伊織とお父さんの仲も良好に戻れたのならよかったと思った。



伊織は朝一人で通学路を歩きながら思い出していた。


初めて、玲蘭を見つけた日を。



一年生の春。学年順位の個票に2という数字が印字されていた。小学校の頃から、テストで誰にも負けたことがなかったのに単純にショックだった。


『お、伊織。2位じゃん。相変わらずすげーな。』


洋一が勝手に覗きこむ。


『1位。誰なのかな。』

『噂だと、3組の雨宮って女の子らしいぜ。
 北小の奴らが言ってた。』

『どうせ、メガネの真面目ちゃんだろ?』


すると、廊下から「雨宮ー!」と呼ぶ声がした。


伊織が廊下を見ると、ふわふわおさげの女の子が振り返った。


雪みたいな白い肌に伊織は目を奪われた。



『これ、落としたぜ?』

『ありがとう。』



クラスメイトからハンカチを拾ってもらっていた玲蘭を、伊織はぼーっとただ見つめた。



『あの子だね。学年トップ。』


『あぁ、みたいだな。』


『あ、まさか伊織、あの子に惚れた?』


『うるせぇな。未来の猿林物産の社長が198位は不味いんじゃねーの。勉強しろ!』


『ゔ!それを言うなよ伊織。』



洋一は家に帰りづらいテスト成績を思い出してしまい、胃をさすり始めた。



一目惚れだった。



伊織の初恋だった。
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