恋は千年、愛は万年。
「…は?アキ?アキなのか!?」
目を見開いたトシくんは、幽霊でも見たかのような顔をして尋ねてきた。
心配しなくても足生えてるよ。
『お久しぶり、トシくん』
僕は、再会が嬉しくて口を最大限に緩めてしまった。
どうかこの笑顔が気持ち悪くないことを願う。
てっきりトシくんのことだから、出会い頭に怒り狂って殴られるかと思ってたから拍子抜けしたよ。
と安心していた数秒後。
「っ、てめぇええ!
今まで何処で何していやがった居候が!」
トシくんに首を掴まれや否や全力で揺さぶられた。
やっぱりこうなるよねぇえ!!
窒息死させる勢いだった。
『えっ、ちょっ、待っ…、し、死ぬ!』
まぁ、僕普通の人間じゃないから死なないけど(笑)
その数分後。
ソウ君が無理矢理にでも引き剥がしてくれたおかげで僕はトシくんに殺されずにすんだ。
額を押さえたトシくんは、とりあえず部屋の中へ僕達を入れてくれた。
障子を閉めると、畳に腰を降ろす。
トシくんとソウ君は僕と向かい合わせの状態で座った。
面接か何かかな?
とにかく二人の剣幕というか、圧が凄い。
「で、お前は何故今ここにいる」
ジトッと恨みがましい目で見られ、僕はどう答えればいいか悩んだ。
『えー、ソウ君と再会して連れてこられただけだけど…。
まぁ、急にいなくなった迷惑を侘びるのと、
お世話になったことについて謝礼金を
渡すために来たんだ』
ソウ君には屯所まで案内してもらえて良かった。
頬をかきつつ、懐から1両分が入った袋を取り出して、すっとトシくんの方に差し出した。
『これ、居候してた分のお礼だから受け取って欲しい』
迷惑かけてごめん、と謝罪し、畳に手をついて謝る。
「…要らねぇよ」
トシくんの言葉に驚いて顔を上げた。
トシくんは、僕のことを困った顔をして見下ろしていた。
「あの時、アンタは家事してくれていたし
それで十分礼になってたんだよ」
『え、でも…』
「いいっつってんだろ!
そもしも何で1両も持ってんだ金持ちか!」
話をそらされた気がしたが、それ以上言ってもトシくんはお金を受け取ってはくれないだろうと察して渋々お金を懐に戻す。
『えー、お金持ちじゃないよ。
単に今持ち合わせてただけ』
特定の家もなければ、養う家族もいない。
僕は放浪の毎日を送っているのだから。
日々の稼ぎを着々と貯めてたら懐がジャラジャラになっただけの理由。
「どっから盗んだんだ?」
疑わしい目つきで僕を見てきたトシくんに、流石に失礼だと感じた為腹が立って言い返した。
『失礼な!盗んでないよ!
全国一周しながら働いて稼いだの』
色々な国で、転々としながら十年も働いたんだから多少は貯まるもんでしょ。
ムゥと頬を膨らませてバンバン畳を叩く。
すると、トシくんとソウ君は何故か口元を覆って僕から目をそらした。
その後、全国一周をしていた理由も問い詰められたが、のらりくらりと躱した。
それだけは答えられないからね。
結局、僕達は夕暮れになるまで話していた。
過去のことから最近のことまで。
中にはこんな雑談もした。
「アンタ…十年経ったのにあんま年取ってないみたいだな。
童顔だからか?」
同じことをソウ君にも言われたけど、やっぱり二人の勘は鋭いらしい。
そうだね、僕、年は取らないからね。
言わないし、はぐらかすけど。
『はははっ、でしょ?
トシくんは老けたね』
まぁ、大人なトシくんも格好いいけれど。
ケラケラと笑って軽口を言ったら、ソウ君の倍痛いげんこつを食らった。
うぅ、手加減なしとか絶対コブできるじゃないか。
何はともあれ、とても楽しい一時だった。