恋は千年、愛は万年。
「何の話をしてるんですか、二人とも」
神出鬼没に現れたソウ君は、僕と一さんの間 にシュッと割り込んできた。
気配も音もなかったから、恐ろしいのなんの。
『わ、ソウ君?!
剣術指南はどうしたの?』
本来この時間帯は道場にいるはずだ。
ソウ君は、至って普通の素振りをしながら言った。
「全員伏せてしまったので、土方さんに叱られて即追い出されました」
『わーぁ』
ソウ君の言葉に僕は苦笑いだけを返した。
地獄と変化した道場が想像に難くない。
以前ソウ君の剣術指南は見学したことがあったけれど、確かに“餌食”という例えがピッタリだった。
ソウ君は天才肌な故に、教え方がとにかく下手なのだ。
隊士達を片っ端からボコボコにしていく様子は地獄といっても過言ではなく。
今日も今日とて、隊士達は根こそぎ殺られてしまったようだ。
心の中で隊士達の逸早い回復を祈り、手を合わせる。
「それよりも、アキさんは今日休みだそうですね?」
然りげ無く毒を吐くソウ君に僕は目を見開く。
一体どこで耳にしたのだろうか?
トシくんに言われて未だ半刻くらいなのに。
ソウ君は耳聡いというか、情報通だなぁ。
『あぁ、うん。
トシくんから強制的にね』
不満タラタラに言うと、ソウ君は「予定とかあります?」と聞いていた。
『やることなんて家事以外ないよ…』
料理すら禁止なんだもん。
僕の料理が恋しくなっても知らないからね!
「じゃあ、僕と外出しませんか?」
外出…?
そういえば、京都に戻ってから買い物以外で、外に行ってないな。
暇だし、気晴らしに行っても良いかも。
『行く!』
「俺も行っても良いか」
それまで蚊帳の外に放り出されていた一さんが話に加わり、ソウ君が顔を歪めた。
僕は人が多い方が楽しいだろうなと思い『是非!』と賛成する。
「(一くん、空気読んでよ)」
「(いつも邪魔してくる仕返しだ)」
目だけでやり取りをし、バチバチと火花を散らす二人とは別に、僕は『何処に行こうかなぁ』と心を躍らせていた。