恋は千年、愛は万年。
家事が一通り終った後、夜深く、僕は一人でそそくさとお風呂に入ると縁側で涼んでいた。
今夜は満月らしい。
厨で水を一杯枡で掬ったモノをコクリと飲みながら月を眺める。
何年経てど、月は変わらないなぁ。
「アキ?」
『ん?あぁ、トシくん』
後ろから掛かった声に振り返ると、普段は一つ結びの髪を下ろしたトシくんが僕を見つめていた。
十年ぶりに髪下ろしてるところを見たけど、トシくんやっぱり女装似合いそう。
大人な美女ってところかな。
「眠れねぇのか?」
眠れないというか、火照りを冷ましてるだけなんだけれど。
説明が面倒臭くて、まだ少しだけ濡れた髪を持ち上げれば、「風呂上がりか」と察してくれた。
トシくんは、僕の隣にやってきて腰を下ろす。
『月が綺麗だねぇ』
「そうだな」
二人揃って見上げる月は変わらずまん丸。
トシくんは、僕を横目に口を開く。
「アキ、何で十年前いなくなったんだ?」
それは、当然ではある質問で、僕にとっては大変都合の悪い質問だった。
またその質問かぁ。
僕がトシくん達を放って全国へ逃げ回った理由。
僕は、トシくんに顔だけ向けると、薄っすら微笑んで唇に人差し指を当てる。
『ひーみつ』
「…っ!」
僕の仕草にトシくんは数秒赤面した後、首を左右に振って仕切り直す。
「誤魔化すんじゃねぇよ。
アンタの情報が何一つ出てこないなんて変だろう?
一体何を抱え込んでやがるんだ」
僕の誤魔化しはアッサリ見破られてしまった。
あーぁ、残念。
人一倍勘が冴えているトシくんは一筋縄では行かないか。
まぁ、そんな予想はしていたけどね。
隠す、ではなく、抱え込む、と表現する辺りがトシくんらしい。
疑うんじゃなくて、心配してくれてるんだな。
僕みたいな正体不明な怪しい奴を。