恋は千年、愛は万年。



思い立ったが吉日と、壬生浪士組の屯所を探そうと周りにいた人に話しかけようとした矢先。


ガッシャーン


近くにあった甘味処から大きな物音がした。

何事?!と顔をソチラに向けると、甘味処の前に人集りができていた。

おっと、問題発生かな?

心配1割、好奇心9割で近づいてみると、案の定揉め事が起こっていた。


人混みの隙間から見えた甘味処の中は、荒らされて惨状と化していた。

そして、次に見えたのは必死で説得をする店の主人の胸ぐらを掴んで脅す体格が大きい浪士の姿だった。


「勘定は払っていただかんと困ります!」

「誰のおかげで町が守られていると思ってんだ!
 
 町に貢献している俺様に指図するのか!」


あらぁ、情けないこと。

一介の武士が偉そうに、暴れ回って豪語しているじゃないか。

見た所、ただ刀を差しているだけの浪士に見えるけど。

町を守っている?貢献している?

…馬鹿じゃないのかな?

図体だけ大きくて、脳みそ足りてないんじゃない?

何を勘違いしてるのかは知らないけどさ。


京都の町を守ってんのは、お前じゃなくて壬生浪士組でしょ?


ここらじゃ、人斬り集団だって恐れられているようだけど。

それでも多分、壬生浪士組の人間達は、アンタみたいに暴力で支配したり、威張ったりはしないよ。


「これでもまだ説教垂れるか、貴様!」


なかなか屈しない甘味処の主人が煩わしくなったのか、刀を抜いて刃を見せた浪士。

甘味処の主人は顔を真っ青にした。


「や、やめてください!」

「ならば、さっさと其処を退け!」


刀をギラリと光らせて、脅す浪士を前に甘味処の主人は喉を鳴らす。

しかし、覚悟を決めた顔をした後、首を横に振った。


「…っ、できまへん!」


うん、甘味処の主人勇気あるね。

強盗は逃さないの大事大事。


てか、壬生浪士組まだかな?

ここら辺も巡回してたりしないのかな?


「ぐちぐちうるせぇんだよ!
 
 馬鹿にしやがって!」

顔を真赤にした浪士がブンッと振り上げた刀は、主人に向けて振り下ろされていく。


え?この人思考回路どうなってんの?

え、殺す気なの?

頭とち狂ってんのか?

悪いのはどう考えても浪士なのに。


「ひっ、やめてくれぇ!」


両腕を交わして顔と身体を庇う甘味処の主人。

あ、やば、切られちゃう。

僕、出来ればあんまり目立ちたくはないんだけどなぁ。

なんて呑気なことも言っておられず、僕はタンッと地面を蹴って神業の如く、人の間をすり抜けた。



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