恋は千年、愛は万年。
そして、甘味処の主人と浪士の間合いに入り込んで刀を白刃取りした。
真剣だから多少血は見ちゃうけど、僕は生憎刀を持ち合わせてないし仕方ない。
弾くのは弾くで、外野に被害が出るかもしれないし。
ポタポタ、血が垂れるけどお構いなく。
「…っ!!なんだ、てめぇ!!」
目をかっぴらいて驚く浪士と目が合う。
別に、名乗るほどの者じゃないけど?
刀から手を離すと、プラプラと2、3回手をふった。
血はもう流れていない。
後ろには、甘味処の主人がいる。
「…あ、あんさん、手が…っ!」
心配そうな顔をする甘味処の主人に僕は笑顔を返した。
「大丈夫ですよ、舐めときゃ治ります」
切られても、これくらいならばすぐに治る。
流血口が塞がると、ほら、傷跡は薄くなっていく。
「…っ、なんだいきなり!
部外者が割り込んでくんじゃねぇよ!」
僕の顔を凝視していた浪士は、我に返ったのか叫びだした。
近くで聞くと雑音みたいに煩い。
僕は眉根を寄せると、真顔で口を開いた。
「お前が黙れよ、迷惑野郎が」
開いた瞬間、足を振り上げて、奴の脳天に踵落としを決めた。
ズシャッ
浪士は秒で地面に顔をめり込ませた。
「ぐぁ…っ!!」
本当は、股にでも蹴りを入れようかと思ったけど確実に気絶させるには脳天の方が良い。
意識を失くした浪士に、しゃがみこんだ僕は
にっこり無慈悲に微笑んだ。
「次同じことしたら海に沈めますからね」
聞こえてはないだろうけど、まぁいいか。
言いたいことを言い切り、スッキリした僕は立ち上がる。
浪士を倒したことで周りから称賛の拍手が上がった。
いつの間にか人の数が増えて大喝采になっていた。
え、人助けなんてガラじゃないから照れるな。
甘味処の主人は、僕の前に回り込むと手をガシッとつかんできた。
「ほんまに助かりました!
あんさん、見かけによらず強いんやねぇ!」
「え?どうも?」
見かけによらずって言ったよな今?
褒められたのか、貶されたのか。
まぁ、僕、見た目20歳前後くらいだし、背も5丈6寸(170cm)あるかないかで決して巨大でもない。
剣術、武術だって身につけてはいるけど、
使う場面殆どなかったしなぁ。
殺れるように見えなくても無理はない。
「お名前はなんて言いはりますの?」
「えー、名前?
アキ、ですけど」
名前を言うのはいいけど、若干の不安があった。
今までの経験上、こういう活躍は噂になりやすいからさ。
見てる人の数も多かったし、英雄扱いされても困るんだよね。
そもそも、僕には正義なんてものは存在していないんだから。
すると、凛とした声が耳に入った。
「揉め事ですか?」