恋は千年、愛は万年。
其の九
文久3年、真夏の8月が近づいてきた。
大阪に隊士募集を呼びかけた効果か、屯所はすっかり人が増えて賑やかになった。
人が増えるということは、僕の仕事も増すってことで。
そのため、今の僕は邪魔が入ると苛立ちやすい。
そんなある日の午後。
「アキさん」
眼の前には、新見とかいう芹沢さんの腰巾着が立ち塞がっていて。
絡まれたぁあ、最悪ー!
嫌な予感がしたので、とりあえず身構える。
『何なの、いきなり』
僕は、ムッと口をへの字にする。
コイツに敬意とか毛ほどもないから、敬語なんて遣わないからね。
「芹沢さんがあなたを呼んでいます」
なんか言ってるけど無視した。
え?新見を嫌う理由?幾らでもあるよ。
まず、爽やかさを醸し出す笑顔がどうにも胡散臭いんだよね。
コイツ、絶対性格ねじ曲がってるもん。
それと、新見は中性的な顔立ちの僕を舐るような目で見てくるから嫌い。
気持ち悪いし、不快でしかない。
『え?なんて?聞こえなかったぁ』
聞いていたけど、態とすっとぼけてやった。
だって行きたくないんだもん。
ていうか、大体芹沢さん僕を呼び過ぎなんだよ。
絶対僕を暇人か何かだと思ってるでしょ。
お生憎様、家事で忙しいんだよこっちはぁあ!
あと何でコイツばっかり仕向けてくるんだ。
もっとまともな奴を寄越せ…!