恋は千年、愛は万年。
8月の半ば、大和屋焼き討ち事件が起こった。
僕は屯所にいて、その話を他の隊士達に聞かされた。
もうそんな時期か、と暗い気持ちになった。
確実に、時が近づいていく。
もうすぐ、あの人達は殺されてしまう。
別にそこまで思い入れはないけれど、目の前で失われていく光景は、幾度となく胸を締め付ける。
ここから、壬生浪士組は変わっていくんだ。
大和屋の消火は難航しているらしく、隊士達は皆向かっていった。
『…何もできないって、無力だな』
ソウ君の部屋で、一人膝を抱えて呟いた。
弱々しい言葉が湧いて出てくる。
僕は小姓だし、仕方ないけれど。
ただただ悔しかった。
一番悔しいのは、僕の力なら皆を救えるかも知れないのに、歴史を変えるような行為は何一つできないことだ。
人間でもなく、神ですらない僕は、黙って指を咥えて見ているだけ。
数刻後に消火が済んだらしく、皆は疲弊した様子で帰ってきた。
「ただいま帰りました」
『お帰りなさぁい』
皆を励ましたくて、精一杯笑った。
どうしようもない本音は、心の奥にしまい込んだ。
「…疲れた」
『わ』
帰ってきて早々に正面からソウ君に抱きしめられる。
肩に顔を埋めるソウ君の頭を撫でた。
『…お疲れ様』
ソウ君は疲れるのが嫌いだから、今回の大和屋の騒ぎには参っただろう。
『夕餉出来てるので、食べましょう』
僕は何も知らない振りを決め込んで、日常を過ごすことにした。