【電子書籍化】最初で最後の一夜だったのに、狼公爵様の一途な愛に蕩かされました
「あの、グレン様」
「なんだ?」
「……二人きりに、していただけませんか? 久しぶりに、周りを気にせずお話がしたいのです。あまりよくないことだとは、わかっていますが……。どうか、お願いします」

 ルイスの言葉に、グレンが動きをとめる。
 グレンだって、彼女と二人だけになりたいと思う。
 けれど、それぞれの家柄や、自分が彼女に向ける気持ちを考えると、やはりまずいのでは、とも思った。
 白銀の狼公爵、なんて一部では呼ばれているが、実際、好いた女を前にしたただの男のグレンは、狼になる可能性がある。
 しかし、「二人きり」という甘い響きに負けてしまい。
 少し迷う様子を見せてから、グレンは使用人に退室を促した。
 



 最初は、和やかにお茶をしているだけだった。
 今は二人きりで、他の者には話を聞かれていないと思うと、会話も弾む。
 幼いころ、グレンを追いかけたルイスが転んで泣いた話。
 そんなルイスを、グレンがおんぶして運んだ話。
 あの頃は、獣人と人間の身体能力の差をよく理解していなかったんだ、とグレンは苦笑した。
 この年になった今は流石に、女性はもちろん、人間の男性よりも力が強いことを自覚しているそうだ。

 そうして過ごしているうちに、いつの間にか、外は暗くなっていた。
 ルイスがアルバーン公爵邸を訪れたときは、まだ明るい時間帯だったというのに。楽しいときは、あっという間に過ぎてしまう。
 流石にこれ以上、女性を引き留めることはできない。

「ルイス。そろそろ解散にしようか。あまり遅くまで、男の部屋にいるのはよくない」

 グレンはあくまで紳士的に、ルイスに帰宅を促した。
 彼は窓の外や時計に視線をやっていたから、気が付かなかった。
 ルイスが、きゅっと唇をかんだことに。

「……嫌です」
「……え?」
「まだ、帰りたくありません」
「ルイス?」

 グレンの向かいに座っていたルイスが、無言で立ち上がる。
 彼女は、ずいぶん思いつめた様子だった。
 戸惑うグレンの隣に腰かけると、ルイスは彼の胸に手をおいて、こう懇願した。

「グレン様。私に、お情けをください」
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