【電子書籍化】最初で最後の一夜だったのに、狼公爵様の一途な愛に蕩かされました
 カリーナが、ちらりとルイスを見やる。
 彼女の赤い瞳には、ルイスへの敵意が混じっているように見えて。
 ルイスは、その迫力に息をのんだ。

「グレン。あなた、本当に番を見分けられるようになったのかしら?」
「は? なに言ってるんだ? ルイスが番だったと話しただろう?」
「……本当は、あなたは番を見分ける嗅覚が発現しないタイプ。そうではなくて?」
「いや、だから……。彼女が番だと言ってるだろ。婚約もしている。どうしてそんなことを言うんだ」

 グレンには、確かに嗅覚が発現している。
 ルイスが番であると確信しているし、事実、そうであった。
 しかし、カリーナは。

「グレン。あなたは、初恋の人を手に入れるために、嘘をついている。ルイス・エアハートは、偽の番。そうでしょう?」
「はあ……? あのなあ、もしそうだったとして、どうしてきみにそんなことがわかるんだ。番かどうかを理解できるのは、本人だけだ。きみに、俺の番が誰なのかを知ることはできない。ルイスは確かに俺の番だし……偽の番だなんて、他人のきみに言われる筋合いはない」

 番、というシステムについては、グレンの言う通りだった。
 獣人には、番を見分ける嗅覚が発現する。
 しかし、それが誰であるのか、本当に見分けられているのかどうかを理解できるのは、本人だけだ。
 そのため、この世界には、「あなたこそが自分の番だ」と言って異性を騙し、金品を奪い取る詐欺も存在している。
 獣人の言う「あなたが番」という言葉が真実であるかどうかを知ることできるのは、当人だけなのである。

 ルイスのことを「偽の番」などと言われたグレンは、怒りを露わにする。
 しかしカリーナは、怯むことなく、淡々と。グレンにこう告げた。

「わかるのよ。私が、あなたの真の番だから」
< 42 / 87 >

この作品をシェア

pagetop