【電子書籍化】最初で最後の一夜だったのに、狼公爵様の一途な愛に蕩かされました
「お前、自分がなにを言ってるかわかっているのか」

 グレンの声は低くなり、その青い瞳は鋭くカリーナを睨みつける。
 これまで、ルイスが見たことのない表情だった。
 部屋の空気が、ぴんと張り詰める。
 自分に向けられた怒りではないというのに、グレンの隣にいるルイスまで縮こまってしまいそうだった。
 獣人男性であるグレンは、この空間で最も強い生き物だ。
 その彼が怒りを露わにすると、こんなにも迫力があることを、ルイスは初めて知った。

「俺たちのような立場の人間が番を詐称することの意味と、嘘だとわかったときの罰、当然理解しているんだろうな?」
「もちろん、罰があることは知ってるわ。でも、嘘じゃないもの。罰を受けるとしたら、ルイスを番と呼ぶあなたのほうじゃない?」

 獣人による、番宣言。
 その言葉には、大きな力がある。
 獣人同士の番であれば、互いに相手を好きになるため、問題は少ない。
 しかし、相手が人間であった場合。
 グレンとルイスのように、元から両想いでもなかった限り、人間側は苦労することになる。
 あなたが番、自分の唯一の人、だなんてことを、見知らぬ他人やただの知人から突然言われることになるのだ。
 戸惑うのが、当然というものだろう。
 しかも、番に出会ってしまった獣人は、他の者を愛することができなくなってしまうため、無下にもできない。
 その獣人が貴族や王族だった場合、既に恋仲の者がいたとしても、半ば強制的に婚姻を結ばされることだってある。
 それだけの効力を持つだけに、獣人が番を詐称していたと分かった場合、彼らは罰を受けることになる。
 王侯貴族ともなれば、平民よりもその言葉の強制力が強いだけに、さらに厳しい罰則が設けられている。

 グレンの番はルイスだ。彼はそう確信を持っていた。
 嗅覚の発現した獣人である彼には、カリーナが嘘をついていることがわかっている。
 何故カリーナがこんなことを言い出したのか。グレンにはわからなかった。

「……四大公爵家同士で婚姻を結ぶようにでも、誰かに言われたのか?」

 ふと、グレンは気が付く。
 もしかしたらカリーナは、家や国に、グレンを手に入れろと命令されているのかもしれない。
 強制的に婚姻を結ばせたいのなら、獣人に番だと宣言させるのが手っ取り早い。
 既に番を見つけたグレンに対して、「自分が真の番だ」と言ってくる理由など、それぐらいしか思いつかなかった。
 しかし、カリーナはゆるゆると首を横に振る。
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