【電子書籍化】最初で最後の一夜だったのに、狼公爵様の一途な愛に蕩かされました
「……私はね、半年ぐらい前に、番を見分ける嗅覚が発現したの。でも、近くにはいなかった。あなたの婚約を祝うために西方に向かっているうちに、番の存在を感じるようになって……。あのときは、これまでにない感覚に、ひどく気分が高揚したわ」

 そのときの感覚を思い返しているのだろうか。カリーナは、ほう、とうっとりとした様子だ。
 彼女は、グレンとルイスとは1つ違いの、17歳。
 嗅覚を得る時期としては妥当だ。
 
 グレンとカリーナは、同格の家柄の者として早いうちから交流はあった。
 しかし、領地が離れているため、会う機会はそうそうない。
 幼馴染とも呼べるのかもしれないが、顔を合わせた回数は少ない。そのぐらいの仲だった。
 身分差はあるが、住む場所が近く、長く深い付き合いのあったルイスとは、ちょうど反対のような立場である。
 しばらく会わないうちに、嗅覚を得た。その話そのものは、本当かもしれない。

「アルバーン邸に近づけば近づくほど、その感覚は強くなっていったわ。その時点で、もしかしたら、と思っていたの。そして、あなたを前にして確信した。あなたの番は私よ、グレン」

 なおも主張を変えないカリーナに、グレンは苛立ちを抑えることなく息を吐く。

「……誰かの命令じゃないとしたら、お前は自分の意思で嘘をついていることになる。今この場で撤回するなら、大事にはせず、気の迷いや冗談だった、ということで済ませてやることもできるが……」
「気の迷いでも、冗談でもないわ」

 にこり。カリーナが笑みを浮かべた。
 うさぎのような耳がついた、小柄な獣人。
 彼女が微笑めば、性別問わず人を魅了する。
 しかし、番を見つけた獣人であるグレンが、カリーナの笑顔に心をときめかせることはなかった。
 カリーナが、今度はルイスに視線を向ける。彼女の笑みは、消えていた。

「ねえ、ルイス。あなた、グレンの初恋の人らしいわね。身分差のある幼馴染で……。見たところ、あなたもグレンに恋心を抱いていた。それで合ってる?」
「……はい」

 ルイスの答えに、カリーナは「やっぱりね」と歪に口角を上げた。

「話が見えてきたわ。私の番もひどい男ねえ」
「ひどい、男……?」

 カリーナは、蔑むような視線をルイスに向けていた。

「身分差のある初恋の人を手に入れるために、グレンは嘘をついたのよ。自分の番だと言えば、身分など関係なく、自分のものにできるから。まあ、たまにある話だわ」
「っ……」

 カリーナの言葉は、「そんな話を信じ込まされて、可哀想な子」と続く。
 ルイスは、なにも言えなくなってしまった。
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