【電子書籍化】最初で最後の一夜だったのに、狼公爵様の一途な愛に蕩かされました
「いい加減にしろ、カリーナ。これ以上の侮辱は許さない」
「侮辱してるのはあなたでしょ? 初恋の人が番だなんて嘘をついて、女を喜ばせて。それが嘘だとわかったとき、どれだけ彼女が傷つくことか」
「もういい、黙れ」
「あなたの番は私。嘘で女を縛るのはもうやめて、私と……」
「黙れと言っている!」

 グレンが声を荒げる。
 彼の声が、本気の怒りをはらんでいたから。
 それまで饒舌に話していたカリーナもびくっとし、流石に言葉を続けられなくなった。

「もうやめろ。……きみに、手をあげたくない」

 カリーナを見据えるグレンの青い瞳に、光は宿っていなかった。
 声も、瞳も、放たれる雰囲気も。全てがひどく暗く、冷たく、けれどたしかな怒気を含んでいた。
 これ以上続けられたら、番であるルイスを侮辱し、傷つけられた怒りを制御しきれないかもしれない。
 番を傷つけられることは、獣人にとって、それほどに許しがたいことなのだ。
 グレンとて、古い付き合いであるカリーナに、手をあげたいなどとは思わない。
 だから、そうなる前にやめて欲しかった。
 グレンは、もう一度カリーナに警告する。

「カリーナ。今すぐここから立ち去れ。俺が、まだ自分を抑え込むことができているうちに」
 
 グレンの言葉は、ただの脅しではない。彼は、本気だ。
 獣人同士とはいえ、グレンは長身で体つきのしっかりした男性で、カリーナは小柄な女性。
 力比べになれば当然グレンが勝つし、放たれる威圧感も段違いだ。

「っ……。今日は、ここまでにしておいてあげるわよ」

 これ以上は、まずい。カリーナも、そう理解した。
 カリーナは、悔しそうに顔を歪めながらも、二人の前から消えた。
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